では、「文化人類学の手法」とは何でしょうか。その代表が「フィールドワーク」です。
フィールドワークをやる前とやった後では、全然見え方が違ってくるはずです。自分とはまったく違う生活の中に身を置いて、一緒に過ごすことで、自分自身がつくり変えられていくプロセスがあります。
それをやることによって、教養をまた一段、身につけられる──これは文化人類学者が実感していることです。
東京大学の文化人類学コースでは、フィールド演習について「就活する学生も、就活前の自分の最重要活動として取り組め」と言われます。プロの研究者になる人だけでなく、ビジネスの世界に出ていく人にとっても、フィールドワークの経験は非常に価値があるのです。
自分がどんな「色眼鏡」をかけているのか──普通に生きていたら、誰も気づけません。自分なりの色眼鏡でいろいろなものを見ているのに、それが「色眼鏡」だとは思っていない。
しかし、異なる文化や異なる人々と深く関わることで、初めて「自分はもともとこうだったんだ」と気づけます。それは、「近くのもの」を「遠くのもの」にするという視点そのものです。
自分にあたりまえに備わった行動様式や文化というものが、あらためて「こうだったんだ」と気づける。「これはこれでちょっと偏っているよね」というおかしいところに気づける。
フィールドワークとは、単なる調査手法ではありません。それは、自分自身の視野を広げ、より柔軟な思考を身につけるための営みでもあるのです。
「わからない」に耐える力――ネガティブ・ケイパビリティ
現代のビジネスは、あまりにも「わかりやすさ」や「効率」を求めすぎています。すべてを数値化し、KPIで管理し、予測可能な範囲でコントロールしようとします。
しかし、人間という生き物は、そんなに単純ではありません。非合理的で、矛盾に満ちていて、だからこそ愛おしく、面白い存在です。
文化人類学的な調査は「仮説生成型」の調査と言われます。一般的なマーケティングリサーチは「仮説検証型」です。「この商品は20代女性に人気があるはずだ」という仮説を立てて、それが正しいかどうかをデータで検証します。
しかし、企業が今、直面しているのは、「自分たちが何を問えばいいのかすらわかっていない」という状況です。仮説が明確にあるなら、検証すればおしまいです。
しかし、「自分たちはどっちに向かえばいいのか」「このやり方で合っているのか」というときに、「あなたたちが問うべきはこれです」「仮説として持つべきはこれなんじゃないでしょうか」と生成できること──それが文化人類学的アプローチの強みなのです。
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【ビジネスに新しい視点をもたらす「文化人類学」の思考法】
