「努力すれば成功できる」は本当か…数百万人規模の遺伝子データが揺さぶる教育の前提

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The Child Code(邦訳『「遺伝が9割」そして、親にできること』)でダニエル・ディックは、より実践的な方向に踏み出す。彼女のメッセージはこうだ。

・遺伝は子どもの傾向を形づくる

・しかし親の役割は小さくない

・むしろ、子どもの遺伝的特性を理解することで、より適切な環境を用意できる

ここで強調されるのは「遺伝的能動性」である。子どもは環境の受動的な被害者ではなく、自らの特性に合った環境を引き寄せ、選び取る存在である。それがどのような扱いにくい遺伝的気質を持った子どもであっても、その遺伝的能動性を認めることで親として適切な対応ができる。これはプロミンの議論の延長線上にありながら、決定論への誤解を解く試みでもある。そして本全体のトーンとして、自身の母親としての経験も織り混ぜながら、わかりやすい子育てノウハウ本的体裁をとることで、行動遺伝学が実用的なご利益も持ちうることを示している。

ユリア・コヴァスは、教育心理学と行動遺伝学の橋渡しを試みてきた研究者である。ファトス・セリタとの共著Oedipus Rex in the Genomic Era(ゲノム時代のオイディプス王)は日本では翻訳されていないが、ゲノム時代における人間理解、教育、法制度の再設計を論じている。

プロミンのおひざ元で活躍するコヴァスもまた、GWAS=PGS革命をふまえ、その予測力の高さをオイディプス王神話での予言の成就になぞらえ、次のように論ずる。

・遺伝的個人差があることを前提に教育を設計すべきではないか

・標準化された教育制度は、本当に公平なのか

・法制度は責任概念をどう扱うべきか

これは、行動遺伝学を社会制度に接続しようとする野心的な試みである。

優生学との関係

このように、行動遺伝学はあらたなゲノム時代に人間が個人的にも社会的にも遺伝とどう向き合ったらよいかについて、重大な問題提起を自ら行っている。それでも予想される「行動遺伝学は新しい優生学だ」という批判に対して、行動遺伝学者の端くれである私から、一言申し上げておきたい。

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