「遺伝はタブーではなく事実」最新のDNA研究が突きつける"能力差の現実"
DNA革命がもたらした転換
ロバート・プロミンの『こころは遺伝する』は、その転換点を記した一冊である。彼は、行動遺伝学の第一人者としてこの分野を半世紀以上牽引してきた研究者だ。本書の最大の魅力は、自らの半生を自伝のごとく回想しながら、専門知識を驚くほど平明に語っている点だ。この本は単なる入門書ではない。人間における遺伝の意味を科学史の内側から解き明かしてきた歴史的証言であり、同時に私たちの世界観を揺さぶる書物である。
本書の結論は驚くほど明快である。
・あらゆる心理的・行動的個人差には、無視できない遺伝の影響がある
・それは今やDNA配列レベルで測定・予測できる段階に入った
・教育年数や知能のような特性については、遺伝的予測がすでに可能である
とくに重要なのは、GWAS(ゲノムワイド関連解析)という手法と、そこから算出されるポリジェニック・スコア(PGS)だ。何千、何万という遺伝的変異(いわゆる一塩基多型(SNP)、つまりDNAの遺伝情報を構成する30億対のATCGであらわされる塩基ひとつひとつのちがい)の微小な効果を足し合わせることで、教育達成や精神疾患リスクの確率を、個人レベルで統計学的に有意に、それもかなり実用性のある程度まで予測できるようになってきたのだ。
確かに現時点での説明力は数%〜15%程度にとどまる。しかし社会科学において、この規模で安定した再現性をもつ予測力のある指標はほとんどない。しかも今後サンプル数が増えれば精度は上がる(現に本書の出版時2019年の教育年数のSNPの説明率は10%程度だったが、2022年のOkbayらの論文では16%に達している)。
とはいえ遺伝による予測力の上限値は、行動遺伝学が伝統的に算出してきた双生児遺伝率である50%どまりだ。また精神疾患に関わる遺伝的変異は健常者も持つ変異の量的な差にすぎず、異常と正常の間に区別はつけられない。





















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