総合商社の「エース営業」が課長になって病んだワケ 「1カ月でなんとか…。会社のみんなに申し訳なくて…」

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うつは一部の精神科医や心理学者に、短期回復を強調する見解もありますが、臨床現場では長期的支援が必要なケースも多いです。坂本さんの場合もそうでした。時間をかけて上手に休めるようになると、心の病の症状を抑えられるようになります。

ただし、休むためには本人の頑張りだけでなく、周囲の支えも必要です。

家族が患者を見守るときのポイントとは

わたしは奥さまに話を向けました。

広岡:奥さまにもひとつお願いがあります。

妻:(不安げな表情を浮かべ)何でしょうか?

広岡:“休むことを許す環境”をつくってあげてください。

妻:……休むことを許す、ですか?

広岡:はい。

妻:具体的に何をすればいいんですか?

広岡:特別に何かをする、ということではありません。大事なのは、ことあるごとに『わたしたちは一緒にいるよ』と伝えてあげることです。それが何よりの薬になりますから。

妻:それだけでいいんですか? もちろん、夫が休むことを責めたりはしませんが、本当にそれだけでいいのでしょうか。早く回復するように、わたしもできる限りのことをしたいんです。隣で夫の苦しむ姿を見てきましたから。

広岡:お気持ちはよくわかります。でも、ご家族のいちばんの役割は、安心できる環境をつくることです。無理して励まそうとすると、かえってご主人の心が乱れてしまうこともあります。家族のために頑張ろうと焦ることもありますから。一喜一憂せずに、寄り添ってあげてください。

妻:……。

広岡:病気と向き合うのはご本人だけではなく、ご家族にとっても大きな負担です。でも、家族の理解と支えがあれば、必ず回復への道が開けます。これで坂本さんには、この診察室とご家庭という2つの安心できる場所ができますね。

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妻:はい……、これからは励ますより、寄り添うようにします。

わたしが奥さまに伝えた、家族が患者を見守るポイントは「評価せず」、「比べず」、「急かさず」、そして「良い日を大きく、悪い日は小さく通過する」ことです。

何より大事なのは「一緒にいる」を伝えてあげること。

奥さまは、それを忠実に守ってくれました。

次回の診察で、坂本さんの表情がやわらかくなっていました。おそらく、心の中のポジティブ成分が大きくなっていたからでしょう。

坂本さんは、その穏やかな日々を過ごす中で、心の中に小さな「今日を生きる力」を育てていったのだと思います。

広岡 清伸 精神科医

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ひろおか きよのぶ / Kiyonobu Hirooka

精神科専門医、指導医、精神保健指定医。広岡クリニック理事長。富山県高岡市出身、早稲田大学中退、日本大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院研修医、堀ノ内病院、関東労災病院などを経て1992年に横浜市港北区に広岡クリニックを開設。患者の目線に立って治療する独自の「肯定的体験療法」が評判を呼ぶ。今まで診察してきた患者は1万人を超える。著書に、『広岡式こころの病の治し方』(日経BP社)、『心の病になった人とその家族が最初に読む本』(アスコム)などがある。

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