学校を変えた、困っている子は「校長室に登校」《担任一人に背負わせない仕組みで"排除しない教育→学校文化"を形に》

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ただ、高橋氏は就学支援委員会の判定について「妥当性はあるが、絶対ではありません」とも指摘する。

委員会の判断は一般的な条件を前提にしたものだが、実際には学校や学級の環境、担任の力量、子ども同士の関係、保護者の意向など、さまざまな要素が成長に影響するからだ。そのため「特別支援学級が望ましい」とされた子どもが通常学級で学ぶケースも少なくない。

一方で、通常学級の教員が戸惑う場面も多いという。高橋氏は「そういう子が来たとき、何をしていいかわからない先生も多い」と話す。

例えば字を書くことが難しい児童に対して、すぐに「なぞり書き」から始めても効果は上がらない。指先の力や基本的な動作など、より前の段階から支援する必要がある場合もある。

学習指導要領に沿って同じ内容を教えなければならないという意識が強く、子どもの実態に合わせて学びの段階を下げて考える発想が持ちにくいこともあるという。

だからこそ、担任一人で抱え込まず、学校全体で支援を考える体制が重要になる。そのうえで、その子にとってどの学びの場が最も適しているのかを丁寧に見極めていく必要がある。

高橋氏は、転籍支援についても「丁寧なプロセスが欠かせません」と強調する。制度上の判定だけで結論を出すのではなく、体験や対話を重ねながら保護者と本人が納得して選択できるようにするという。

例えば、自閉症のある児童のケースでは、保護者が通級を希望したものの制度になく、利用できなかった。そこで、当時特別支援学級の担任だった高橋氏は、週1回、特別支援学級に通う体験の機会を設けた。

教育委員会や学校と調整し、授業の様子をビデオで保護者に共有。実際の様子を見たことで理解が深まり、最終的に保護者は特別支援学級への転籍を決断した。

ダウン症の児童のケースでは、通常学級に在籍していたが担任は特別支援学級を勧めていた。しかし保護者は友達関係を理由に転籍に消極的だった。

そこで運動会の時期に合わせ、約2週間特別支援学級で過ごす体験期間を設定。運動会にも参加し、わが子が生き生きと活動する様子を見た保護者は転籍を決めた。転籍後も元の学校の学童に通えるようにするなど、人間関係が途切れない配慮も行ったという。

「最終的に決めるのは保護者や本人。だからこそ、丁寧な道筋が必要です」

インクルーシブ教育を阻む「学習指導要領」の壁

ただ、高橋氏は「学校現場の努力だけでは解決できない問題もあります」と指摘する。その1つが、学習指導要領の内容の多さだ。

現在、次期学習指導要領の議論では「多様性の包摂」や「個別最適な学び」といった言葉が並ぶ。しかし高橋氏は「教える内容を減らす議論がまったくなされていない」と疑問を投げかける。

「新しい学びが次々と学校に持ち込まれる一方で、従来のカリキュラムは温存されたまま。先生たちは常に時間に追われ、立ち止まることを許されません」

例えば、文字を書くことが難しい子どもに対して、本来は指先の力を育てる段階から指導する必要がある場合もある。しかし学習内容が過密なままでは、そうした基礎から丁寧に学ぶ余裕が生まれにくい。結果として、学習についていけない子どもが増え、「排除」の発想が生まれやすくなるという。

高橋氏は、この構造的欠陥に、一石を投じる。

「本気でインクルーシブ教育をやるなら、思い切って、カリキュラムを半減すべきでしょう。何を教えないか、何を残すのかという議論を真剣にしなければなりません」

国は特別支援教育の充実をインクルーシブ教育の推進と説明するが、それだけでは十分ではないと指摘する。多様な学びの場を前提にしながら包摂性を高めることを目指すなら、学習内容や授業の進め方も含めて、学校の仕組みそのものを問い直す必要があるからだ。

「教員の働き方改革や、いじめの問題も含めて、根っこは同じところにあると思うんです」

高橋氏はそう語る。子どもの多様性を前提とした学校をつくるには、現場の努力だけでなく、制度やカリキュラムのあり方そのものを見直す議論が欠かせない。

桃井第一小学校の実践は、日本のインクルーシブ教育のあり方、そして学習指導要領そのものに問いを投げかけている。

東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。
長島 ともこ フリーライター&エディター

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ながしま ともこ / Tomoko Nagashima

育児、教育、PTA、暮らしのジャンルを中心に、書籍、雑誌、PR紙、WEB媒体において取材、執筆、企画、編集、講演等の活動を行っている。また、自身のPTA活動や記事執筆を機に、全国のPTA仲間と「PTA・保護者組織を考える会」を立ち上げ、情報発信やイベントの運営、PTAやP連からの相談活動等を行う。

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