そうして選んだ部屋が私たちの編集部になり、自身は編集長を気取っていた。そうすることで精神の安寧を図っていたわけだが、いつでも好きな映画について熱弁を振るうSと飲んでいると、なんだかもっと遠くの広い世界へといざなわれるような、そんな感覚を味わえたものである。
「ちとふな」で過ごした日々は青春だった
野心しかなかった私と、野心はおろか、明日の計画さえもまるでなかったS。
今はともに筆一本で生計を立てている。私は偉人研究家として、そしてSはホラー作家・澤村伊智として。
「いやあ、ずいぶんと差をつけられましたよ。今や日本を代表するホラー作家ですから」
この原稿を書くにあたって、久しぶりに千歳船橋を歩いた。かつて通った馴染みのBARのマスターに、そんな近況を報告したかったけれど、もう店はなかった。
人が変われば、町も変わる。それでも、上京して初めて住んだ街への思いは変わらない。ちとふなの街と、狭いワンルームで過ごした日々は、私にとって間違いなく青春だったのだ。
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