お湯は沸かせるが温水シャワーは出ないので、知人の家で借りるというタイスさんは、「私は恵まれているほうだと思う。もうすぐ平和が訪れるなんて幻想は少しも抱いてないけど、皆で助け合ってこの状況を乗り切らないとね」。
手土産代わりに日本から持参した使い捨てカイロを渡すと、「わあ、ありがとう!でも私は何とでもなるので、近所でもっと困っている人にあげてもいいですよね!」と明るい表情を見せ、こちらが泣きそうになった。
「寒さで人を殺す」ロシアの冷酷な狙い
キーウは11世紀のキエフ大公国時代に建てられた世界遺産の修道院群と、旧ソ連時代の無骨な建築が隣り合わせに混在する歴史都市である。
東西冷戦下の1960年開業のキーウ地下鉄は、核シェルターを想定して地下100メートル余りに建設された駅もあり(試しに測ると地上改札から地下ホームまでエスカレーターで4分以上かかった)、軍事侵攻が始まって以降、多数の市民が夜間攻撃を避けて、小型テントや寝袋で寒さを防ぎながら仮眠する緊急避難場所としても機能している。
ところで、停電でなぜ暖房まで止まるかというと、そこには旧ソ連圏ならではの事情がある。今も多くの住民が居住する50~60年代の集合住宅は冬季、地域全体の集中暖房(セントラルヒーティング)に依存している。各地区にある熱併合発電所で火力発電すると同時に、廃熱を有効利用して温水をつくり、給湯管を通じて各家庭やオフィスに供給する合理的なシステムである。
したがって、個々の発電施設を狙い撃ちされると、地域全体への電力・暖房供給が止まってしまうだけでなく、停電が長引けば給湯管が凍結して破裂するなど被害が拡大し、復旧が遅れることになる。
「ほんの数時間前に電話で話した独居老人が停電の最中に急死した」という話を耳にしたが、システムを構築した当事者であるロシア(旧ソ連)は、寒さで人を殺せることをよくわかったうえで執拗に攻撃を繰り返している。




















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