旺盛な「推し活」は物価高にも円安にも影響受けず、企業サイドは若者だけではなく可処分所得の多い中高年層もターゲットに

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だが、推し活を支援・分析するOshicocoを創業した多田夏帆代表取締役は、新型コロナ禍を経てその意味が変化し、社会的にも受け入れられやすい概念になったと話す。

趣味への支出やバーチャルコミュニティー参加などを通じて一般化した推し活は、自分ではなく、好きな「推し」のために行うという利他的・布教的な側面もあるという。多田氏自身の推しはタイの俳優だそうだ。

体験にこそ価値

自分の夢や願望を推しに投影する、いわば「パラソーシャル」な側面もある。誰もが大谷翔平になりたいけれど、簡単にはなれないが、自分の夢を大谷に託し、応援することで、自分ができなかったことを共有しているように感じられると多田氏は言う。

支出の形は多様だ。グッズ購入だけでなく、推しと同じ持ち物をそろえるケースもある。K-POPグループ「ブラックピンク」のリサがモンスターキャラクター「ラブブ」の人形を持っていたことで、ラブブ人気が広がったのはその象徴だ。

公演を見に行くため、あるいはアニメやゲームの舞台を訪れる「聖地巡礼」のため遠出するファンも多い。日銀が着目しているのは、こうした地域活性化の効果だ。インフレにも強く、地方経済の追い風にもなる活動は、日本経済が最も必要としているものだ。

Z世代にはお金がないとよく言われるが、多田氏によると、若者たちはそれまでの世代が資金を投じてきた自動車や高級時計といった高額消費を避け、体験に価値を見いだしている。コレクションに加え、インスタグラムやTikTokの影響、コロナ禍の孤独な体験がその基盤となっている。

ただし、推し活をしているのは若者だけではない。企業は可処分所得の多い中高年層にもターゲットを広げている。

筆者も調べる中で、自分自身も推し活をしているのではないかと思い始めた。ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者、井上尚弥を見るために高額なチケットを買ったり、関連商品を購入したりするのも同じではないか。

筆者が横須賀を訪れた唯一の理由は、そこが名作アドベンチャーゲーム「シェンムー」の舞台だったからだ。さらに言えば、地方のクラフトビール醸造所を訪ね、他人に薦める行為も推し活なのかもしれない。

結局、誰もが皆、何かしらの推し活をしているのだろう。誰であれ、どんなに値段が高くなったとしても、どうしても諦めきれないものはある。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)  

著者:リーディー・ガロウド

ブルームバーグ
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