“昭和天皇の弟”もハマった味!東海道線と箱根路で楽しむ、駅弁「あじ寿司」と「幻の蕎麦」。日本の近現代を「鉄道」からひもとく
8月8日、「あじ寿司」を食べたいがために修善寺駅を訪れた。改札の隣に駅弁売り場があった。目当ての弁当は思ったより小さかったが、12時35分発東京ゆきの特急「踊り子4号」の車内でフタを開けると、ご飯が見えないくらいびっしりと鰺が載っている。沼津港で獲れたばかりの鰺だという。押し寿司でもにぎり寿司でもなく、ちらし風の寿司だった。
わさび、生姜(しょうが)、桜葉、レモンが彩りを添えている。ご飯や醬油も含め、すべて地元産にこだわっているという。
鰺を一切れ食べる。脂が乗っていて柔らかく、臭みがまるでない。ご飯や薬味と一緒に食べると、さらに鰺の新鮮な味が引き立つ。全く観光地を訪れていないのに、これだけで伊豆の海の幸を堪能したような気分になった。
「踊り子」は修善寺を出ると三島まで伊豆箱根鉄道を走り、三島からは東海道本線に入って熱海、湯河原、小田原、大船と停まってゆく。どの駅にも桃中軒か東華軒か大船軒の出店や売店があり、「鰺」の付いた駅弁が買えることに気づいた。
高松宮が「国府津 あぢすし」と記してから一世紀近く経った。「あぢすし」は湘南から伊豆にかけての駅に広がるとともに、昔ながらの在来線の旅の醍醐味までも味わわせてくれる。
入江相政のお気に入り
侍従や侍従長などを務め、半世紀あまりにわたって昭和天皇に仕えた入江相政(すけまさ)は、無類の蕎麦(そば)好きであった。
特に「ざるそば」にはこだわりがあった。「泥臭かろうが、田舎じみていようが、私はとにかく、水気のいくらか枯れた蕎麦の味を礼讃する」(『濠端随筆』)と述べるように、水気にはうるさかった。この点で水を一切使わず、蕎麦粉と自然薯(じえんじょ)、卵だけで仕上げる箱根湯本の蕎麦屋「はつ花」は、入江のお気に入りの店の一つとなった。
入江が「はつ花」に行くときには、決まって新宿から箱根登山鉄道の箱根湯本まで乗り入れる小田急のロマンスカーに乗った。
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