プロンプト不要で誰もが使えるAIを目指すアップル。文章要約や校正はメニュー選択だけ。ChatGPTなどとは根本的に異なるアプローチに迫る
実際、アップルの登場を境に市場がガラリと塗り替えられる現象は、過去20年の間に何度も繰り返されてきた。 そして筆者は、そうした歴史を振り返ればこそ、「ただ早く出すことに意味はない」という教訓が、すでに世の中に浸透していると信じていた。
長年アップルの歩みを追い、その“遅さ”がしばしば革新の布石となってきた姿を見てきた筆者としては、むしろ今回のような状況にこそ、アップルらしさを感じる。
アメリカの有力メディアのいくつかがアップル幹部を取材しSiri関連のAI機能の遅れについて質問しているが、同社の幹部たちは口を揃えて「まだ、我々が求める品質に達していないから」と語っているが、その言葉にむしろ安堵を覚える。周囲が焦り、「遅い」「出遅れた」と騒ぎ立てる中で、中途半端な品質のまま製品を出してしまうのは浅はかだが、そこで耐えて高みを目指し完成度を高め、一定以上の品質を保ち顧客に対して責任を果たす。これまでもそうした姿勢がアップルを成功に導いてきた。
Apple Intelligenceが目指す、プロンプト不要の未来
では、ここからは2つ目の視点に移ろう。
果たして「OpenAIやMicrosoft、GoogleのようなAIの採用が、本当に唯一の正解なのか?」という問いである。
確かに、OpenAIのChatGPTは画期的な成果を挙げている。しかし、それは“ベストな形”なのだろうか? そもそも、あなたはそのAIを“本当に”使いこなせているだろうか? もし使いこなしていたとしても、その使い方をほかの人にわかりやすく説明できるだろうか?
例えばプロンプトを書くとき。いくつかのモデルがある中で、どういう目的のときに「GPT-4o」を選び、いつ「o3」や「o4-mini」を使うべきか、明確に使い分けができている人は少ないはずだ。

GoogleのAIも同様だ。2024年以降、Geminiは劇的に進化し、まったく別物のように生まれ変わった。とはいえ、Gemini内の異なるモデルやNotebookLM、Google AI Studioなど、複数の製品やモデルを前にして、どれをどう使えばよいのか戸惑う人も多いのではないか。
一方、アップルはまったく異なるアプローチを採っている。 1984年、初代Macintoshの発売時に掲げたコピー「Computer for the rest of us(すべての人のためのコンピュータ)」──この理念が、40年近くを経た今、AI時代のデザイン指針として再び息を吹き返している。
当時の他社のパソコンを使うには「dir」や「md」「cd」「ls」など、呪文のようなコマンドを暗記し、それを正確にタイプしなければならなかった。今のAIにおける“プロンプト”も、どこかそれに似ている。高度な使いこなしには、ある種の“専門スキル”が求められてしまっているのだ。
だが、Apple Intelligenceが目指しているものは根本から違う。
例えば長文を要約したいとき。ChatGPTでは、文章をコピーし、アプリを開いて貼り付け、プロンプトを入力する必要がある。 一方、Apple Intelligence対応のiPhoneやMacでは、文章を選択し、コンテクストメニューから「作文ツール」→「要約」を選ぶだけで済む。キーボードに一切触れずに、要約が即座に表示される。
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