プロンプト不要で誰もが使えるAIを目指すアップル。文章要約や校正はメニュー選択だけ。ChatGPTなどとは根本的に異なるアプローチに迫る

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1つは、「早くAIを採用することが、本当にそれほど重要なのか?」という視点。もう1つは、「OpenAIやMicrosoft、Googleのようなアプローチが、果たして唯一の解なのか?」という視点だ。

遅い=危機は本当か?後出しジャンケンとAppleの哲学

IT業界を長く見てきた人であれば、iPhoneが決して“世界初のスマートフォン”ではなかったこと、iPadが“初のタブレット”ではなかったことは、当然知っているはずだ。

 

例えば、2001年にアップルが発表したiPod。この製品は世界を席巻したが、実際にはMP3という音楽フォーマットを採用した携帯音楽プレーヤーとしては、かなりの後発で他社製品は6年以上も前から市場に出回っていた。

しかし、アップルがiPodで示したのは、単なるスペック競争ではなかった。使い心地で圧倒的な差をつけたことで「デジタル音楽プレーヤー=iPod」というイメージを生み出し、その結果、先行したはずの他社製品はまるで存在しなかったかのように忘れ去られ、他社もこぞってiPodを模倣した製品を発表するようになった。

iPhoneの登場時も同様だ。2007年にアメリカで、2008年に日本で発売されたiPhoneの前にも、BlackBerryをはじめとするスマートフォンはすでに存在していたし、日本では三菱電機などがタッチ操作に対応した携帯電話をいち早く投入していた。

 

2007年1月のiPhone発表の模様。この時点で既にいくつものスマートフォンがあり、iPhoneは後出し製品だった。スティーブ・ジョブズはそれらが物理的なキーボードを搭載していることが問題だと指摘し、iPhoneでは全面タッチスクリーンを採用した(筆者撮影)

それでもiPhoneの登場を機に、スマートフォンの主流は一変した。以後の世界では、iPhoneとその設計思想を踏襲したAndroidベースのスマートフォンが、携帯端末の標準となった。

1996年、スティーブ・ジョブズがアップルに復帰して以降、同社は再び“ものづくり”の勘所を取り戻していく。iMac、iPod、iPhone、iPad──これら一連の製品群が立て続けに成功したのを受けて、それまで日本やアメリカで盛んに語られていた「先行者利益」という言葉は、次第にその意味を失っていった。

当時の通説では、いち早く新しいテクノロジーを導入した企業が、その市場における主導権を握るとされていた。しかし、アップルの成功を通じて浮かび上がってきたのは、それとはまったく逆の事実だ。

だが現実には、テクノロジーを「とりあえず形にした」だけの製品群が市場に溢れかえり、失敗を重ねた後に、アップルが登場させる「完成度の高い」プロダクトが、ユーザーの体験を一変し、市場を奪ってしまう。

そうしたパターンが繰り返されてきたことで、やがてこの状況を揶揄と賞賛を込めて「後出しジャンケン」と呼ぶ人たちが現れた。

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