線路で「太陽光発電」、日本の鉄道に導入できる? 2本のレールの間にパネル設置、スイスで実証実験

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では、スクデリ氏の回答をもとに日本での導入可能性について考察してみよう。

線路の保守作業との兼ね合いは大きな問題だ。日本では鉄道保守員がほぼ毎日、どこかの駅間を歩いて線路や枕木の状態を確認しているが、ソーラーパネルが設置されるとその下の状況が把握しにくくなる。スクデリ氏は「線路とソーラーパネル間は約20cm離れている。枕木が破損する箇所は主に締結釘との結合部なのでつねに目視できる」とのことだが、木製の枕木は中央部が腐食することもあるため、保守作業の際はソーラーパネルの取り外しは必要だ。

これでは、保守作業期間中のソーラーシステムの発電量に影響を及ぼしかねないが、近年は、運行列車への軌道監視システムの設置や、新しい保守車両の導入も進められているので、ソーラーパネル下の枕木やバラストの状態を監視できるシステムが開発される可能性もある。目視検査からコンピューターによる分析に取って代わられるのも、そう遠くない気がする。

ただ、大きな作業時におけるソーラーパネルの固定と取り外しは大規模な作業には数夜かかる可能性があり、一部分の作業も20分ほどかかるとされている。運行頻度の高い路線では難しい作業時間だが、今後、時間の短縮が検討されているようなので期待したい。

線路間の安全装置などへの影響については、2025年春から開始されている実証実験において影響を確認するとしている。日本は保安装置のほか踏切や信号も多いため、誘導障害などの影響も確認事項となるだろう。

感電の危険性は少ないとのことだが、やはり不用意に線路に近づくことは保安面からも避けなくてはならないだろう。また、地方路線では動物の侵入によるパネルの破損も考えられるため、線路脇への柵の設置は不可欠だ。時間や費用の面を考えると、まずは高架区間などから導入を開始するのがいいだろう。

枯れ葉などのソーラーパネル面への異物対策は、ブラシや圧縮空気などが考案されているが、サンウェイズ社はこれ以外の方法も検討しており、コンペでアイデアを募る準備を進めているという。運転士の視認性についても、やはり実証実験で確認されると思われる。

スイス以外でも実証実験を検討中

サンウェイズ社は、将来的にスイスの鉄道約5000kmに設置することを目標としている。これが実現すれば、年間1テラワット/時の電気が生まれ、30万世帯に供給が可能となり、年間20万トン以上の二酸化炭素が削減できるという。

現在、スイス以外でも、フランス、カナダ、韓国での実証実験が計画されており、中国、インドネシア、イタリア、アメリカでも協議が始まっている。

日本においても、このシステムが導入されれば二酸化炭素の排出量が抑えられるだろう。ただ、先に述べたいくつかの問題点を解決する必要があるが、日々進歩する現代なら不可能ではない気がする。

新しい技術は、すぐには受け入れられない傾向があるが、サンウェイズ社のシステムは、未来社会の方向性を示しているようだ。2025年春から始まったパイロットプロジェクトの結果を期待したい。

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渡部 史絵 鉄道ジャーナリスト

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わたなべ・しえ / Shie Watanabe

2006年から活動。月刊誌「鉄道ファン」や「東洋経済オンライン」の連載をはじめ、書籍や新聞・テレビやラジオ等で鉄道の有用性や魅力を発信中。著書は多数あり『鉄道写真 ここで撮ってもいいですか』(オーム社)『鉄道なんでも日本初!』(天夢人)『超! 探求読本 誰も書かなかった東武鉄道』(河出書房新社)『地下鉄の駅はものすごい』(平凡社)『電車の進歩細見』(交通新聞社)『譲渡された鉄道車両』(東京堂出版)ほか。国土交通省・行政や大学、鉄道事業者にて講演活動等も多く行う。

 

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