一級建築士の紙田和代さんは、地域の長屋や商店街の店舗の保存・再生を手助けする八島花文化財団の理事だ。
都市計画やまちづくりのコンサルタントとして、長く墨田区の仕事を担当してきた。そうした活動のなかで、京島という街に出会い、惚れ込んだ。
2005年には京島の長屋に引っ越してきた。当時住んでいた長屋はなくなってしまったが、今も京島の古い一軒家に住んでいる。
「この地域の長屋の多くは1923年(大正12年)の関東大震災のあとに、新潟からやってきた『越後三人男』と呼ばれる大工集団によって造られたんです。
その人たちが、地主さんから土地を借り、借地人となって次々と長屋を建てていったのだといいます。おかげで京島はいっきに住宅街になりました」
越後三人男の末裔は今もこの地域にある多くの土地や長屋の所有者であるらしい。
保存活動に尽力してきた成果
八島花文化財団は、地域の景観を守りたい人たちと、越後三人男の末裔やその他の地権者とともに、長屋の保存などに尽力してきた。そのひとつの成果が「けん玉横丁」の新築長屋だ。
紙田さんが続ける。
「商店街の支線の通り沿いに2軒分の空き地がありました。ここに新しい建売住宅が背中合わせに建つことになったんです。
商店街沿いに新建材の住宅が建ったのでは街のにぎわいを消してしまう、かつての風景を再現したいと、なんとかお願いして、商店街側に面した土地の借地権を譲ってもらえることになったのです」(紙田さん)
現在ここには“新築の長屋”が建っている。長屋のリノベーションは聞いたことがあるが、新築長屋は初めて見た。
屋根の形状や、軒の下にある“飾り出し桁”、2階の窓から張り出したベランダなど、かつての長屋のデザインを忠実に再現しているという。1階は店舗、2階は長屋として利用されている。

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