さらに、日本製鉄が投入する巨額資金は、現在の世界的な鉄鋼の供給過剰や脱炭素化圧力の中で、合理性を欠くとの批判もある。格付け会社S&Pは、同社を「CreditWatch Negative(格下げの可能性)」に指定しており、株主価値の毀損や財務リスクが懸念されている。
団結して行動すれば、鉄鋼に対する50%という異常な高関税を阻止できたかもしれないのに、日本製鉄は「自力で抜け道をつくる」形になった。これは、国の交渉方針から離れた行動と映る面がある。そして、政府による交渉の足を引っ張る構造となる可能性がある。
日本製鉄は、USスチールの買収とそれに対する投資により、短期的には関税回避やアメリカ市場でのプレゼンス維持といった成果を得ることになる。しかし、長期的には「巨額投資による財務負担」と「アメリカ市場への過度な依存」という事態に直面するかもしれない。
さらに、国家交渉力の弱体化や同盟国間の協調の形骸化といった副作用をもたらしているのかもしれない。
企業と国家の連携は必要なのか
関税交渉において、企業が単独で政治的関税政策に対応しようとすると、不利な取引を強いられることがある。日本製鉄の件はその典型例といえるかもしれない。
しかし、企業の行動を国の方針に合わせて縛ることは、自由主義経済の原則に反することになる。この点において、関税交渉は大きなジレンマに直面せざるをえない。
日本政府は今後、鉄鋼のみならず、半導体やEV(電気自動車)など、ほかの戦略産業においても同様の問題に直面するかもしれない。個々の企業の動きを「国家的な交渉戦略」とどう調和させるかという問題に直面する可能性がある。
企業の「個別対応」を無条件で認めるのでなく、「国家政策に巻き込む戦略」に転じる必要があるかどうか、検討すべき局面にある。
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