日本製鉄のUSスチール買収は是か非か、対米「関税交渉」の日欧対比が映す厳しい現実

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TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)やIPEF(インド太平洋経済枠組み)などを活用し、多国間枠組みに自国の利益を載せて交渉する方向が重要だ。石破首相は自由貿易圏の拡大を表明しているが、これはそうした立場からの考えだ。

トランプ大統領は、関税をかけることによって、これまでアメリカに輸出していた企業が、輸出からアメリカ国内での生産に切り替えることを狙っている。関税の目的は「貿易赤字是正」や「保護主義」だけではなく、外国企業をアメリカ国内に「呼び戻す」こと(リショアリング)にある。

では、「輸出企業が団結してアメリカ国内生産への切り替えを拒否する」という戦略は、リショアリング関税に対しても可能か――。理論上は可能だ。

輸出企業が団結して、アメリカ国内生産への切り替えを拒否すれば、アメリカで価格が上昇し、その負担を同国の消費者が負担することになる。そうなれば、トランプ大統領も関税の引き下げ、または撤廃を行わざるをえなくなる。だから、高関税を課すことを思いとどまるだろう。

しかし、「個々の企業にアメリカ国内生産への切り替えを拒否する」ことを求める政策は、実行が難しい。輸出企業の一部が高い生産コストを負担してトランプ大統領の提案に従えば、アメリカの思惑どおりになってしまうからだ。

日本製鉄のアメリカ進出とその代償

リショアリング関税への対応がいかに難しいかを示すのが、日本製鉄によるUSスチールの買収案件だ。日本製鉄はUSスチールの約140億ドルに及ぶ大型買収計画を通じて、「アメリカで作り、アメリカで売る」という構造を実現しようとしている。

しかしトランプ政権は、買収を受け入れる見返りとして、5000人以上の新規雇用や老朽化施設の刷新、現地調達率・生産比率の引き上げを明確に要求した。これにより、日本製鉄は交渉の主導権をアメリカ政府に握られている。

一方の日本政府は、これまで「高関税は望ましくない」という原則を掲げ、関税の除外措置を求める交渉方針をとってきた。だが、今回の日本製鉄の行動はその方針からの逸脱ともいえる内容になっている。

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