「カウンターに立ち続けて39年」「休みは盆と正月だけ」蝶ネクタイのマスターが営む“ふつうの喫茶店”が、地域で愛され続ける理由

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平日の14時すぎ、昼のピークタイムを過ぎた時間帯に訪れると、テーブル3席、カウンター10席のほどよい広さの店内は、数名の客で埋まっていた。カウンターの向こうでは蝶ネクタイを締めた店主の河合敏男さん(75歳)が機敏に働いている。

蝶ネクタイは、河合さんにとっていわば“仕事着”のような存在。付けることで、気持ちがシャンとして仕事モードに切り替わるのだとか。

珈琲家族 可輪亜居
コーヒーサイフォンが並ぶ重厚なカウンター。広いとお客さんをほったらかしにしてしまうので、1人でできるサイズの店にしたそうだ(著者撮影)

店内には、黙々と勉強する学生や、スポーツ新聞を読みに来るのが日課の男性もいれば、河合さんと会話を弾ませている旅行で立ち寄った観光客もいる。

それぞれが思い思いの時間を過ごす空間は、まるで家の茶の間のようだと思った。

屋号の“珈琲家族”からも想像がつくが、店主の河合さんは「家族的なコミュニケーションの輪」を大切にしている。

「近所の人とざっくばらんな話ができる喫茶店が僕の理想でした。30年以上通ってくれているお客さんも多いんです」

河合さんは一見客でも常連客でも分け隔てなく話しかける。

ツナゴボウサンドを食べる観光客に「美味いやろう」と声をかける。常連客が「マスター、強制的やねん」とツッコミを入れる。

「今から準備するから、出来上がりはもう少し待ってね」と注文品を待つ客に声かけをする。

「今日中にはできるから」と冗談も忘れない。

河合さんを中心に、あちこちで会話や笑い声がいきかう。

常連客との息の合ったやり取りや、さりげない気配りは一朝一夕では身につかない。

サイフォンで“魅せる一杯”のコーヒー

珈琲家族 可輪亜居
サイフォンでコーヒーを淹れる河合さん。フラスコの中に湯を入れ、コーヒー粉をつけこみ一気に抽出する(著者撮影)

コーヒーの注文が入ると豆を挽き、サイフォンで淹れる。サイフォンで淹れたコーヒーは、口当たりがまろやかになるのだという。特選ブレンドのマイルド珈琲は500円だ。

「ショーマンシップじゃないけど、お客さんの前で『今作ってますよ』と派手なパフォーマンスができるのもサイフォンの魅力です。サイフォンでコーヒーを淹れているところを初めて見る人が多く、よく質問をされます。スマホで写真を撮る人も多いですね」

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