元なでしこ・宮間あやさん(40)「絶望でしかなかった。でも生きていくと決めた…」。彼女が初めて語った《引退の真相》とサッカーへの思い
周囲からは、彼女もキングカズこと三浦知良選手のように生涯現役を貫くのではないかと思われていた。
「私自身も、永遠に一番やりたいことはサッカーだと思っていました。けれど、そうじゃない日が来た。自分でもまったく予想していない展開でしたね。あのときに自分は、一度死んだんじゃないかと思います。でも、まあ、なんとか生きています」
宮間は苦笑まじりに、引退を決めた日のことをゆっくりと語り始めた。
「『自分が理想とするサッカーは、もうこの時代にはない』。そう確信した日にやめました。人間関係とか、チームとの関係は単なるきっかけに過ぎません。私自身が目指しているものが、時代と合わなくなってきた。何年も前から薄々感じていたのですが、目を背けて、『そんなことはない』と気づかないふりをして、その場しのぎの対応をしてきてしまったがゆえに、ある日やめることになってしまったという感じです」
宮間が「理想とするサッカー」とは?
宮間が「理想とするサッカー」とは、どんなものなのだろう。
「20年以上のサッカー人生の中で、『死ぬほど頑張らないと勝てない』『何かを犠牲にしなければ人を感動させることはできない、応援してもらうに値しない』と思い込んでいました。日の丸を背負って戦う、お金をもらってプロとしてサッカーをする選手はそうでなくてはならないと。おそらくその考え方は時代に逆行すること。そのジレンマを何年も抱えていました」
サッカーに限らず、時代や社会情勢の変化によって、自分の理想と現実が乖離することはあるだろう。ワークとライフを調和させる生き方が推奨されるなかで、アスリートがライフを充実させることは決して悪いことではない。
だが、ライフを充実させることでプレーヤーとしての質が下がるとしたら、少なくとも9年前の宮間にとって許容しがたいことだった。
「相当遠いところに理想を置いてきたんだろうなと思います。ピッチの上でしか感じられない感動、音、におい、チームメイトの声。当たり前ですが、そういうものは刹那で、永遠ではない。やめた後、『恋しいな』と思うことはありましたけど、それと同時に、『ああいう瞬間はもう絶対に感じられないだろうな』という確信もありました」
宮間はなぜ、そこまで理想にこだわるのだろう。
「不器用な人」「ストイックな性格」。彼女の人となりにその答えを求めるのは簡単だが、それだけでは十分ではない気がした。なぜそのような瞬間は二度と感じられないと確信したのか、彼女に聞いた。
「私は、誰かがうれしそうにしていることに喜びを感じるタイプなんです」
宮間はずっと「誰か」を喜ばせるためにサッカーをしてきた。まさに彼女のプレースタイルが物語っているのだが、自分がゴールを決めるよりも、自分が出したパスを受けてゴールを決めた選手が笑顔で駆け寄ってくることに喜びややりがいを見出してきた。
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