ビッグ・テックが勝てないゲームに持ち込み、どう戦うか? プラットフォーム戦略の世界的権威が説く従来型企業がとるべき「競争戦略」とは

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この他に本書の中で、独自のデータを活用して顧客中心主義の極致を実現した事例として紹介されているのが、パタゴニアの「Worn Wearプログラム」です。

このプログラムは、修理に出された商品から得られたデータを活用して商品設計を改善するというものです。商品が平均5〜7年の寿命より著しく早く返品された場合、製造方法を調整するという方針を採用しています。

このようにパタゴニアは、サステナビリティという自社の強みを生かしながら顧客中心主義を実現し、プログラム開始から2年余りで12万点以上のリユース品を販売するほどの成果を上げました。

フレネミーとの共存によるビジネスの拡大

顧客中心主義を実現するために、時には「フレネミー」(友でもあり敵でもある関係)をうまく管理する必要が生じることがあります。

前述のドミノ・ピザは、当初フードデリバリー・プラットフォームとは提携しない方針をとっていましたが、顧客接点を拡大するため、2023年7月に、ウーバーイーツと独占契約を結び、ウーバーを通じてドミノ・ピザを注文できるようにしたのです。

ここで重要なのは、同社は得意とする注文受付後から配達までの「オーダーフルフィルメント」に注力し、顧客の流入は顧客規模の大きなウーバーイーツのアプリに託したことです。スマート・ライバルは、自社のコアを理解しコア以外の領域でビッグ・テックをしたたかに利用することで、強みを伸ばすという巧みな戦略を成功させていると言えます。

単にテクノロジーを導入するのではなく、独自のケイパビリティを見失わずにプラットフォームを選択的に採用し、技術を補完することがカギとなります。

本書で紹介されている他の事例でも、エコシステムの重要性を理解することができます。興味深いのは、中国のアンカー・イノベーションズの事例です。

同社は、「高品質で革新的な製品を開発するカギは顧客の声に耳を傾けること」という経営方針のもと事業を展開しており、顧客のフィードバックに基づく製品開発を徹底しました。そのために活用したのが、ビッグ・テックのAmazonのレビュー機能です。

このレビューのデータを自社の製品開発の最も重要なインプットとして活用すべく、VoC(Voice of Customer)と呼ばれる顧客からのフィードバックを迅速に収集して対応する効率的なシステムを開発しました。

このシステムにより事業を拡大させ、2020年に上場、時価総額は2024年1月時点で300億元(42億ドル)を達成しました。自社のECサイトを運営する同社にとってフレネミーであるAmazonとも巧みに共存しながら、自社の強みを活かす戦略を実践する好例です。

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