デビュー15周年の松坂桃李「家庭を持ってから考えるようになったこと」。最新作で共演の”大御所俳優”との思い出も聞いた《独自インタビュー》
インタビュー中、松坂は終始控えめで、柔らかく、穏やかに笑っていた。特別な人間を装うことなく、目の前の相手に丁寧に向き合うその姿は、俳優というより、ごく普通の青年にさえ見える。
そんな姿とは裏腹に、カメラの前で彼は別人になる。怒り、哀しみ、狂気、静けさ。作品ごとにまったく異なる感情を体現する俳優だと知ったとき、観る者の胸には、言葉にならない余韻が残る。
「演じるって、相手と心を交わすことだと思うんです」
その言葉には、まるで誰かを大切に思うような、静かな確信が宿っていた。

松坂がこうした思いを持つようになったのは、20代半ばのとき。舞台の稽古中、演出家・小川絵梨子の何気ない言葉が、彼の胸に深く刺さった。
「お芝居は一人で完結するものではなく、相手からのプレゼントをきちんと受け取ってください」
それは、演技における「受ける力」の大切さを教えてくれた言葉だった。以来、松坂の中で演技とは“交換”の行為となった。
「お芝居は、プレゼントの交換のようなものだと思っています。相手役の方が出してくれる感情をしっかりと受け取る。そして、今度は自分なりの感情を返す。そのラリーの中で生まれるものが、演技の本質だと感じています」
個を主張するのではなく、相手を尊重し、自分を差し出す。その姿勢は、作品を重ねるごとに深まっていった。
自分らしさを定義しないという自由

「“松坂桃李らしさ”って、自分ではあまり分からないんですよね」
と笑う。何でも受け入れてしまいそうなその穏やかな声に、確信めいた力はない。ただ、柔らかな自信が滲んでいた。
ジャンルを選ばず、難役も、コメディも、舞台も、声優も引き受ける。その「どんなことにも挑戦する姿勢」こそが、周囲が感じる“らしさ”なのかもしれない。
「でも、自分ではそれが“らしさ”かどうかも分からない。見てくださる方のほうが、僕をよく知ってくださっているんじゃないかと思います。だから、あえて自分で定義せず、他者に委ねているんです」
あえて色を持たないことで、どんな色にも染まる。その無色透明さが、松坂桃李という俳優の最大の個性なのかもしれない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら