トランプの登場で蓋が開いてしまった「パンドラの匣」 果たして最後に"希望"は残っているのか

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

池上 1978〜79年のイラン・イスラム革命を思い出します。それまでイランは「パフラヴィー朝」という王政(君主制国家)で、シャー(国王)のもとで西洋化・近代化が進められていました。しかし、その過程で経済格差の拡大、政治的独裁、宗教的価値観の抑圧などに対する不満が国民の間で高まっていきました。

やがて王政は倒され、シーア派の高位聖職者ホメイニ師を中心とする宗教指導者たちが権力を掌握し、「イスラム共和国」となりました。そして、預言者ムハンマドの時代の教えに基づいた「イスラム法(シャリーア)」を基盤とする国家運営が始まったのです。あのときは、「時代は進歩していくものだと思っていたのに、この現代に1400年前の価値観に戻るのか!」と大変衝撃を受けましたね。

歴史は一直線ではなく、行きつ戻りつ進む

池上彰と増田ユリヤのYouTube学園特別授業 ドナルド・トランプ全解説: 世界をかき回すトランプ氏が次に考えていること
『池上彰と増田ユリヤのYouTube学園特別授業 ドナルド・トランプ全解説: 世界をかき回すトランプ氏が次に考えていること』(Gakken)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

しかし、革命から40年以上が経ち、現在のイランでは、厳しい宗教的ルールや自由の制限に対する不満が国民の間で高まり、特に若者や女性を中心に、「もっと自由を」と変化を求める声が強くなっています。

歴史は「一歩前進、二歩後退」、または「一歩後退、二歩前進」というように、揺れ動きながら進んでいくものなのでしょう。レーニンも、『一歩前進、二歩後退』という著作を残していますね。

増田 日本には、「三歩進んで二歩下がる」という歌詞の水前寺清子さんの「三百六十五歩のマーチ」という往年のヒット曲がありますよ。三歩進んで、二歩下がる……。これなら、二歩下がったとしても、一歩は進んでいるということですね。

池上 世界もそうかもしれません。一気に三歩進みましたが、いまは二歩下がっている時なのかもしれない。しかし、トランプがどんなに昔の価値観に戻そうとしても、私たちはすでに「現代」を経験しています。トランプ政権下の反省や見直しも、今後多く出てきて、きっとまた前に進む力になるでしょう。

歴史は常に反省を重ねながら、ゆっくりと前へ進んでいくものなのです。そう信じましょう。

池上 彰 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶応義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

この著者の記事一覧はこちら
増田 ユリヤ ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ますだ ゆりや / Yuriya Masuda

1964年、神奈川県生まれ。27年にわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務めた。テレビ朝日系列「大下容子ワイド!スクランブル」でコメンテーターとして活躍。著書に『揺れる移民大国フランス』『世界を救うmRNAワクチンの開発者カタリン・カリコ』など多数ある。また池上彰氏との共著に『歴史と宗教がわかる!世界の歩き方』などがある。「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」でもニュースや歴史をわかりやすく解説している。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事