人間の頭脳を超えたAI登場で何が起こるか…歴史学者ハラリがAIの進化に警鐘を鳴らす理由

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そして、私たちが賭けているのは人間の命だけではない。AIはすでに自ら芸術作品を創作したり科学的発見を成し遂げたりすることができる。今後数十年のうちには、遺伝子コードを書くか、非有機的な存在に生命を与える非有機的なコードを発明するかして、新しい生命体を創造する能力さえ獲得する可能性が高い。したがってAIは、サピエンスの歴史の道筋ばかりか、あらゆる生命体の進化の道筋さえも変えかねない。

AIが囲碁で人間を超えた瞬間

ムスタファ・スレイマンは、AI問題の世界的な専門家だ。彼は世界でも屈指の重要なAI企業であるディープマインド社の共同創業者・元責任者で、AlphaGo(アルファ碁)プログラムの開発などの主要な業績がある。AlphaGoは、囲碁を打つように設計された。囲碁は戦略的な盤上ゲームで、二人の対局者が地を囲ったり奪ったりして、相手を打ち負かそうとする。古代中国で考案されたこのゲームは、チェスよりもはるかに複雑だ。したがって、コンピューターがチェスで人間の世界チャンピオンたちに勝った後でさえ、コンピューターはけっして囲碁では人間を負かせないと、専門家は依然として考えていた。

だから、2016年3月にAlphaGoが韓国の囲碁のチャンピオンである李世乭(イ・セドル)を破ったときには、プロの棋士たちもコンピューターの専門家たちも愕然とした。スレイマンは2023年の著書『THE COMING WAVE AIを封じ込めよ』〔訳註:邦訳単行本は2024年刊行。以下、本書からの引用文は、柴田裕之氏による独自訳〕で、両者の対戦におけるとりわけ重大な瞬間を説明している。AIが定義し直され、学界や政府の大勢の関係者の間で歴史上のきわめて重要な転機と見なされている瞬間だ。それは、2016年3月10日、対戦の第二局で訪れた。

「それから[……]37手目が打たれた」とスレイマンは書いている。「まったく意味不明の手だった。どうやらAlphaGoは失態を演じたようで、プロ棋士なら絶対に選ばないような、見たところ負けにつながる戦略を、無思慮に採用したらしい。ライブ解説を行なっていたプロの最高段位の棋士二人は、『なんとも奇妙な手』と述べ、『読み間違い』と考えた。あまりに変わった手だったので、李は次の手を打つまで15分考え、盤を離れて外を歩いてくるほどだった。私たちは調整室で見守っていたが、そのときの緊張には凄まじいものがあった。ところが、終局が迫ると、その『読み間違い』が決め手だったことが明らかになった。こうしてAlphaGoが二勝目を挙げた。囲碁の戦略が私たちの目の前で書き換えられていた。私たちのAIは、何千年にもわたって囲碁の達人たちさえ思いつかなかった考え方を発見したのだ」

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