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スポーツが進化を牽引した“カーボン” 〜トレカ(R) 高強度・高弾性の両立を追う歴史〜

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カーボンを進化させたのは
常に最先端素材が必要な『スポーツ分野』

多くのメリットをもつ次世代素材の炭素繊維だが、実は産業用途や航空宇宙用途以外にも、さまざまなところで私たちの暮らしに役立てられている。そのひとつがスポーツ用途だ。

「T300」の誕生から40年余り。糸の高強度・高弾性への道程は、実はこのスポーツ用途が牽引した。常に最先端素材が望まれる世界であり、また新素材の商品化が早いため、性能をいち早く世に問うことができる。東レはその中で試行錯誤しながら技術を磨いてきた。この研究開発がすべての土台になっていると言っても過言ではない。

堀 淳
東レ スポーツ材料事業部長
スポーツ用途の炭素繊維の発展を見続け、これからの需要予測や、開発の方向性、設計支援までたずさわる。

●「要求特性」を見極める

東レの炭素繊維事業の原点ともいえるゴルフシャフト。炭素繊維によって軽量化が施されたシャフトはスイングの速度アップを可能とし、打球の飛距離を伸ばすことに貢献する。高弾性率炭素繊維を用いることでシャフトはねじれにくく、打球の正確性を向上させる。また最近ではシャフトの重心を手元側に置くことや、打感の改善などにも炭素繊維が応用されているという。

同じく原点のひとつである釣りざお。炭素繊維のメリットをダイレクトに伝える釣りざおでは、その特性を生かし軽量化と長尺化を実現。長時間の使用でも疲れにくく、さらに魚の寄せやすさや、餌に食いついた動きの伝わり方などにも炭素繊維は生かされている。「鮎ざお」で言えば、70年代にグラスロッドで1kg近くもあったものが、現在はなんと200gというから驚きだ。

●ほぼゼロから始まったカーボンバイク

そして冒頭でも触れた自転車は、いま東レが需要拡大を最も期待している分野のひとつだ。ゴルフシャフトや釣りざおに続く新たな用途として開発が始まった自転車。自転車にカーボンを使用するために尽力した、スポーツ材料事業部の高瀬氏は「だれもそんな発想がなかった。すべて飛び込み営業です」と、当時の苦労を語る。

ある大手メーカーが採用したフルカーボン車が大きな転機となり、カーボン×自転車の可能性が広がっていく。2002年に初となるオールカーボンのバイクがツール・ド・フランスで優勝したことをきっかけに世界中から注目を集めるようになり、いまや「トレカ(R)のシェアは70%弱」。スポーツ分野で用いられる7000トンの炭素繊維のうち、およそ3割の2000トンを担うまでの分野に成長した。

高瀬 裕志
東レ スポーツ材料事業部 スポーツ材料販売第2課長
バイクブランドがトレカ(R)を使用するきっかけをつくり、多くのブランドでの採用を仕掛け現在のシェアに尽力した。

自転車に炭素繊維を用いるメリットとしてまず軽量化が挙げられる。1980年代にはフロントフォークやホイールディスクなど一部の用途に限定されていた炭素繊維だが、現在ではフレームを始めコンポーネント部などあらゆる用途に適用が可能になり、その重量はアルミフレーム完成車9.5kgに対してカーボンフレーム完成車では7kg以下と実に30%近い軽量化を実現している。またアルミと比べ加工性に優れるため、カーボンフレームの広がりによって多様なデザインの自転車を製造することが可能になった。

そして忘れてはいけないのが安全性。東レでは安全性を第一に、これまで航空機などで培ってきた炭素繊維の安全性を自転車分野にも応用。その結果、品質にはとりわけ厳しい自転車メーカー各社からの信頼を勝ち得ている。このように私たちの身近なスポーツ分野においても、東レの炭素繊維技術は至るところで生かされているのだ。

 
2020年には世界需要が現在の2倍以上に拡大すると見込まれている炭素繊維。リーディングメーカーである東レでは今後に向けて「炭素繊維の極限性能追求」「コンポジット樹脂の高性能化・高機能化」「革新成形技術と実証デモの推進」「グローバルR&Dの一層の強化」を軸に、さらなるシェア獲得と市場の開拓を目指す。あらゆるところで私たちの暮らしを支えている炭素繊維技術。今後も東レの取り組みに注目である。

 

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