長崎にある"ほぼ最古"のRC造「廃団地」再生の物語 「50年先にも残したい」 県出身の若者が悩みつつ奮闘

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「現在は山形県に住んでいるものの、いずれ長崎県のために何かしたいと思っていたのでその足掛かりになればと参加。その後、長崎出身の5人と会社を作り、今も関わっていますが、率直なところ、さんざん迷いました。

入居が始まってすぐの現時点ですでに1000万円以上の借金がありますが、それが返せるかどうかもわからない。ただ、活用しなかったらこの貴重な建物が壊されてしまう、その使命感で動いています」と伊東さん。

再生に熱意はあっても100%民間負担の苦しさ

なぜ、そんなに悩まなければならなかったのか。それは出資は100%民間が負担するという条件だったからだ。

民間で建物を賃貸する場合、躯体、ライフラインについては最低限所有者である貸し主が負担するのが一般的だ。入居者が自己負担でDIYをする場合でも「雨漏りがする」「電気が使えない」などといった状態で貸すことは特別に契約しない限りはほとんどありえない。

だが、魚の町団地の場合、県は簡易的な耐震診断を行い、基準を満たしていることは明らかにしたものの、それ以外は現状のまま。ココトトは建物の事前調査もできないまま、契約に至っている。

そのため、契約後、外壁のうち、落ちそうな部分には手を入れたものの、屋上の防水などは行っていない。また電気、ガス、水道、消防設備といった最低限のインフラは用意したが、それ以外は入居者が自分で改修することを前提に募集を開始している。

荒れた室内
室内の状態は部屋によって異なり、さほど汚損していない部屋もあれば、かなり荒れている部屋もある(写真:筆者撮影)
洗面台
洗面台。左側は石鹸置き場として、その下の丸い穴はなんだろう? ご存じの方がいらっしゃれば教えていただきたい(写真:筆者撮影)

それでも電気は当初の20Aでは現在の暮らしには足りないだろうと30Aに上げた。また不特定多数が利用できるようにするため、自動火災報知設備(自火報)を設置することになった。住宅用火災警報器と違い、自火報は設置しなければならない場所が多く、それだけで多額に及ぶ。

自火報を入れたことで店舗、民泊などが可能になり、入居者の幅を広げる結果にはなったが、だからといって賃料を上げられるわけではない。現在の賃料は約40㎡の2Kで1階が月額6万5000円、2階が月額4万5000円となっており、2025年12月31日までは一律2万円割引されることになっている(2年以上入居の場合)。

10年間の定期借家契約で現在県から借りている12室がずっと満室だとしても賃料収入、すでにある借金、県に支払う家賃を考えると事業としてはかなり難しい。今後、1階、2階が埋まり次第、3階以上を順次借りる予定になっており、全部埋まれば黒字に逆転できるそうで、今の段階ではそこを狙っていくことになる。

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