米国の対ウ「塩対応」を非難する人が知らない真実 いま改めて評価したいポーツマス条約の意義

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欧州は多民族・多文化・多言語の集合体であり、欧州ほど戦争を繰り返してきた地域はほかにない。2度の世界大戦の結果、荒廃した欧州は、アメリカが強く関与する形で安全保障体制を形成してきた。それが北大西洋条約機構(NATO)である。

しかし、欧州への関与に消極的だったアメリカをNATOに巻き込んだのは、イギリスなどの欧州側であった。ソ連封じ込め政策の立案者として知られるアメリカの外交官、ジョージ・ケナンなどは、西欧勢がアメリカを西欧防衛に引きずり込もうと画策するのは我慢がならないと考えていた。

つまり、ソ連の軍事的脅威に怯える西欧が、ソ連の強大な軍事力に対抗するためにアメリカの力を借りるという構図こそ、半世紀近く続いた「冷戦」構造の本質だったのである。

ちなみに、「冷戦」構造が成立するまで、アメリカとロシア(ソ連)は歴史的に比較的良好な関係を築いていた。イデオロギーにこだわらなければ、双方の勢力圏や利益が衝突することがなかったからである。

プーチンを悪く言わないのは確信犯?

トランプ大統領は今、米欧ロの関係のありかたを根本的に変えようとしている。トランプ大統領がロシアに融和的に見えるのは、ウラジーミル・プーチン大統領に篭絡されているからではない。停戦を実現することで、ロシアの脅威におびえる欧州の不安を緩和し、ゆくゆくは欧州の安全保障から手を引くための布石である。そう考えれば納得がいく。

改めてアメリカを引き込んで「冷戦」的な米ロ対立構造を現出させたい欧州に対して、トランプのアメリカはモンロー主義に回帰しようとしている。「旧世界」のいざこざに巻き込まれることなく、自国の繁栄に注力したいと考えている。

同時に、ロシアと融和することで中ロの結束を無効化することも期待しているだろう。だから、トランプ大統領が停戦を唱えて、プーチン大統領を悪く言わないのは、確信犯なのである。

ちなみに、アメリカがこういう形で手のひら返しをするのは初めてではない。やはり保守主義者であったリチャード・ニクソン大統領が1971年、同盟国・日本の頭越しに中国との関係改善に動き、「ニクソンショック」と呼ばれたことはよく知られている。

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