スルメイカを日本人が食べられなくなる深刻事態 資源管理が機能せず漁業者は獲れるだけ獲る

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資源の変動は、環境による影響はもちろんあります。しかしながら、それは人間の力ではどうにもなりません。一方できることはあります。それは、漁獲量を制限して資源量を持続させることに他なりません。

ある漁業者の方が「漁業者になるのに試験が必要ではないか」と話していました。実際、「少しでも獲れるようになったら漁をさせてほしい」といった意見が、これだけ水産資源が最悪の状態になっていても出てきます。こうなってしまうのは「教育」の問題です。そこで漁業者になるには、まず「科学的根拠に基づく資源管理」を理解して、その試験に合格することを前提にする必要があると思います。

資源が少しでも回復したら、その貴重な資源をまた獲り尽くしてしまう……という負の循環からは脱却することが不可欠です。

漁業者の方が、魚をたくさん獲りたいと考えるのは仕事なので当たり前です。しかしながら科学的根拠に基づく資源管理の知識なくして漁業をすれば、今の日本が示しているように世界に例を見ない大失敗が続き、水産資源の枯渇という大きな社会問題へと進んでしまいます。

「魚が消えていく本当の理由」を正しく理解する必要

もちろんTACでの管理がすべてではありません。日本がズワイガニを輸入しているカナダ、ロシアとなどの国々と同様にメスを漁獲しないルールを設けたり、アラスカのようにサケは稚魚放流ではなく自然産卵を重視したり、ノルウェーのようにマダラでは40センチ以下は漁獲しないなど、TAC以外に効果が出ている施策もいくつかあります。

TACは、1996年に日本が批准している国連海洋法に明記されています。また漁業法改正でようやく導入されSDGs14に明記されているMSY(最大持続生産量=魚種を減らさずに獲り続けられる最大量)とも大きく関係があります。

資源管理を進め、将来これ以上に魚が獲れなくなるという負の遺産にしてしまわないよう、社会が「魚が消えていく本当の理由」を正しく理解する必要があります。そして正しい前提のもとに水産資源を回復させる政策が実現していく必要があります。また勇気をもって本当のことを言おうとしている方々の根拠にもなれば幸いです。

片野 歩 Fisk Japan CEO

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かたの・あゆむ / Ayumu Katano

早稲田大学卒。Youtube「おさかな研究所」発信。2022年東洋経済オンラインでニューウェーブ賞受賞。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。長年北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国であるノルウェーには、20年以上毎年訪問を続けてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会)、『日本の漁業が崩壊する本当の理由』他。

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