「伊藤詩織映画」なぜ日本と海外で反応が違うのか 知らされていない事実とアカデミー賞候補入りの評価ポイント
公に顔を出して性被害を訴えるという、日本社会においてとても勇気のいる行動を取ったこの女性も、ひとりの若い女性なのである。彼女はそこから立ち上がり、民事訴訟での勝利を手にした。ここには、権力のない者が大きな権力に立ち向かうという、昔から愛される物語がある。
彼女が直面した、日本の保守的な社会・法律も、映画の序盤から描かれる。被害届を受け取ってくれない警察の言葉は録音された音声として映画に出てくるし、彼女のソーシャルメディアへの誹謗中傷なども紹介される。
もし、伊藤氏の元弁護士が指摘する映像部分を全部省いたらどんな作品になっていたのかは、実際に見てみないとわからない。伊藤氏本人が本音を赤裸々に語るシーンが十分パワフルなので、それらがなくても成り立ったかもしれない。いずれにせよ、オスカーの投票者が評価したのは、それらの映像が全部入ったものだ。
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強力な競合作品がずらり
だが、自分自身が登場しながら監督し、タイムリーなテーマを非常にパーソナルな視点から感情的に語っていくというのは、『Black Box Diaries』だけが持つユニークな特徴ではない。
他の長編ドキュメンタリー賞の候補作である『SUGARCANE/シュガーケイン』(ディズニープラスで配信中)は、ネイティブ・アメリカンに対して密かに行われてきた虐待行為を探るもので、監督コンビのひとりであるジュリアン・ブレイブ・ノイズキャットが映画に登場し、自らの家族にも取材していく。歴史的に少数民族が受けてきた抑圧というのもホットなトピックであり、大きなトラウマを抱えた年配の人々の告白は、見ていて涙が出る。
また、日本で現在公開中の『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』には、イスラエル軍占領下のパレスチナ居住地区に生まれ育った青年バーセル・アドラーが、長年の間、個人的に撮影してきた映像が出てくる。
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