自分より「推し」の成功を望む若者たちのリアル 「世界一幸せな衰退国」日本の歪んだ幸福感

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また、比較の対象が身近な国内である限り、大きな不満は起きない。円安もあり、近年は海外旅行に行く人も減っており、発展する豊かな海外を垣間見る人でさえ少なくなる。さらに留学や仕事で海外生活をするなど、海外の豊かな生活を羨望の目で見る人(私もだが)は少数派である。

能力がある人は、社会を変えることにエネルギーを注ぐよりも、海外で活躍したほうが合理的である。NHKで話題になった『ルポ海外出稼ぎ』では、いわゆるサービス業などのアルバイトであっても、オーストラリアやカナダのほうがはるかに高給を稼げる。英語に不自由なければ、海外で働いたほうが、よほど将来に希望が持てる生活ができる。

それが大きな流れにならないのは、やはり、「リスクをとりたくない」という若者がまだまだ多いからだ。だから、優秀な人材が大挙して海外流出し、日本社会が立ちゆかなくなる可能性も低いと見ている。

高収入になるチャンスがあったとしても、貧しくとも安定した生活を送るのがよいというような若者を、われわれ大人たちが育てたというのは、この事態を見越してのことだろうか。

国民の多くが改革を望んでいない

政治に目を転じれば、国内で安定した生活が送れると思っている人は、わざわざ、自分が損をする「かもしれない」ような社会改革は、必要ないと思っている。多くの国民がそう思っている以上、政治家や官僚もその願望に従わざるをえない。将来の日本のためによいと思っても、そのような改革が現在の犠牲を伴うものであれば、だれも行おうとしないからである。

私のような、昭和の時代に若者期を送り、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を知っている者にとっては、衰退する日本を見るのは寂しい。しかし、バーチャルな世界で幸せに生きることがネイティブな若者にとっては、東京大学赤川学教授の『子どもが減って何が悪いか!』(2004年)という言葉になぞらえれば、「日本が衰退して何が悪いか!」と言われかねないかもしれない。

日本が、バーチャルな世界の発展とともに幸せに衰退していくのか、リスクと混乱を伴う抜本的な変革が起きるのか。生きている限り注視していきたいと思っている。

(構成:中島はるな)

山田 昌弘 中央大学 文学部 教授

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やまだ・まさひろ / Masahiro Yamada

1981年、東京大学文学部卒業。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。

親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。また、「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。『結婚不要社会』、『新型格差社会』、『パラサイト難婚社会』など著書多数。

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