しかし、G7や欧州諸国は、ロシアの国際法違反は看過できない。
国際秩序への重要な挑戦で、今後の世界の帰趨(きすう)を決める分水嶺だ。ロシア産資源の禁輸を含む制裁を断行する。それは、エネルギー調達先がロシア以外の国へ移行することを意味する。
国際エネルギー市場の需給バランスが激変する。本来、アジア市場に供給されるはずであったLNG(液化天然ガス)が欧州に行き先を変え、結果、特にアジアで深刻なLNG不足と価格高騰が生じることとなった。
そこで、カナダの出番だ。国際社会安定のための役割を果たす意思と、能力を示す時が来たのだ。
侵略から1カ月が経った3月24日、カナダ政府は、「原油や天然ガスの欧州への供給能力を2022年中に1日あたり計30万バレル相当分まで段階的に増やす」と表明する。
天然ガスをめぐる潜在力と現実
カナダは天然ガス世界第5位の生産国だ。2022年の統計では、約1850億立方メートルの生産量を誇る。ちなみに、上位4カ国はアメリカ、ロシア、イラン、中国と続く。
天然ガスは、大気圧下でマイナス162度まで冷却すると液体になり、体積が気体のときの600分の1になる。それがLNGだ。LNGタンカーで大量の天然ガスを輸送し、目的地に到着すると、液体から気化して、ガスとして利用する。
その上、天然ガスは、石炭に比べると40%以上も二酸化炭素の排出が少なく、脱炭素に向けた現実的なエネルギーとして注目されている。
そこに、ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー危機が加わった。
脱炭素と対露依存からの脱却。ドイツを筆頭に欧州諸国は、カナダの天然ガスに期待を寄せる。カナダはウクライナ危機の前、ロシア、アメリカ、カタール、ノルウェー、オーストラリアに次ぐ、世界6位の輸出国だった。
しかし、カナダが現実に天然ガスを輸出しているのは、アメリカに対してだけだ。中西部の大平原、アルバータ州から南に向かうパイプラインを通じて、産出する天然ガスの約半分を輸出している。
ところが、アメリカは豊富なシェールガスを擁する、世界最大の天然ガス生産国だ。しかも、天然ガスを輸入しているのはカナダからだけ。そして、アメリカは世界最大の天然ガス輸出国だ。
簡単な数字で示す。アメリカは9700億生産し、カナダから900億輸入し、2000億を世界に輸出しているのだ(単位は立方メートル)。
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