「足場固め」のトヨタ、26.4%減益は自信の表れ ソフトウェア時代を見据えた顧客接点も強化

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宮崎副社長の言葉からはトヨタが余力を残していることがうかがえる(写真:トヨタ自動車)

通期業績予想は営業収益が前年度比2%増の46兆円、営業利益は同19.7%減の4兆30000億円、最終利益は同27.8%減の3兆5700億円と減益となる従来予想を据え置いた。

通期予想は変えていないが、一部の前提を見直している。従来7000億円を見込んでいたトヨタ本体や部品メーカー、販売店などへの人材強化投資費用を8300億円まで積み増している。その分ほかで収益性を高められるという見立てだ。

例えば、下期は国内や北米を中心に工場稼働率を高める。国内では上期に153万台だった生産台数を下期は174万台に引き上げ、アメリカでは品質問題で停止していたインディアナ工場の稼働も再開し、「グローバルで年間1000万台の生産ペースに戻していく」(宮崎副社長)。

さらにグローバル販売の2割を占めるアメリカでは、2023年末時点で10.7日あった在庫日数が2024年9月末で6.5日に減らすことに成功。下期も適正な在庫管理を徹底することで販売奨励金(インセンティブ)の過度な積み上げを抑制し、販売体質のさらなる健全化も進める計画だ。

2025年3月期上期を地域別で見ると、北米事業は機種構成の悪化やリコールによる工場停止が響き、同地域の営業利益は1281億円と前年同期比65%減益。競争が激化している中国事業は連結子会社の営業利益と持ち分法投資損益を合わせた利益が1466億円で同35%減益だった。こうした課題を抱える地域でも、収益を確保した形で販売台数を積み上げられるかが業績を左右する。

下期の為替レートの前提は1ドル=147円。生産や販売が計画通りに進み、150円台半ばという現状の為替水準が続けば、通期業績は会社計画を上回る公算が大きい。宮崎副社長は「5兆円の稼ぐ力は維持した上で仕入れ先・販売店を含めた人への投資、成長領域への投資を加速させる」と語ったが、この言葉からもトヨタには余力があることがうかがえる。

「バリューチェーン収益」は着実に伸長

決算会見で会社側が時間を割いたのが「バリューチェーン収益」の取り組みに対する説明だ。新車を売った後にどれだけ稼いでいるかを示す指標で、新車に取り付けるアクセサリー関連などの用品や、販売した車両の修理に使用する補給部品、金融商品やコネクテッドサービスの売り上げが含まれる。

トヨタはコロナ禍の2021年3月期以降、このバリューチェーン収益を毎年1500億~3300億円の幅で拡大してきており、2025年3月期も前期比で増加額が1400億円となる見通しを示した。

バリューチェーン収益が伸びている背景には、トヨタが販売会社を通じて管理する「掌握台数」の増加がある。掌握台数とは、メンテナンスパックの獲得によって、継続的にタッチポイントを持つことができる顧客数を指す。この掌握台数を増やすことで、顧客に対して補給部品や用品を提案できる機会も増え、結果、バリューチェーン収益が拡大するというわけだ。中でも、ヨーロッパではメーカー保証の延長サービスが顧客からの支持を得ており、同様の取り組みをグローバルで拡げていくという。

トヨタがこのバリューチェーン収益を重視するのは、将来的な電動車時代を見据えていることがある。今後EV(電気自動車)を軸に先進性を前面に押し出した車両が普及すれば、ソフトウェアによって購入後も機能や性能を向上させるサービスの需要が高まることが予想される。

無線通信によってソフトウェアをアップデートするOTA(Over The Air)などが代表例で、こうしたサービスは新車の販売後も継続的に稼げる新たな収益源として各社は開発競争を加速している。

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電池コストがかさむEVは車両価格が同クラスのエンジン車に比べて100万円単位で上昇することが避けられない。市場全体での新車販売台数は自ずと減少するため、どのように利益を確保していくかが業界で共通の悩みとなっている。トヨタとて、EV比率が今後高まっていくと現在と同水準の利益を稼ぎ出すことは容易ではない。そこで従来とは異なる収益として期待されているのがソフトウェアサービスというわけだ。

もっとも、グローバルでEVシフトは鈍化しており、どのタイミングでEVの普及が本格化するかはわからない。宮崎副社長は「最終的に商品を選ぶのはお客様。そのために、お客様の選択に柔軟に合わせていける構えを賢く構築していく準備を進めている」と語り、EVへの投資判断や生産計画はギリギリまで見極める姿勢を強調した。

いつかはやってくる本格的なEV時代に向けて、生産現場やサプライチェーンの"足場を固め”、販売サイドではバリューチェーン収益を育てていく――トヨタの地道な体制づくりはしばらく続く。

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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