自死の道を選んだ「就職氷河期世代」の夢と現実 36歳で早逝した早稲田OBに何が起きたのか

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「一時期は『薬を飲まないと生きていられない』というほど落ち込んでいた。岩井に『おまえには両親もいるし、実家に住めて幸せだよ』と言われたことがあった。その後、塾経営や地元政治家の手伝いなどをしていたので、元気なのだと思い込んでいた。人知れず孤独感を抱えていたのかもしれない」

浪人を経て早稲田に入学したYは現在48歳。定職には就いているものの、何度か転職を経験していて、いわゆる「正社員の出世コース」ではない。交際する女性はおらず、性交渉の経験もない。今は実家暮らしだが、いつか単身高齢者になる可能性がある。「将来に不安を感じるか」と聞くと、Yは杯を傾けながら、こう答えた。

「岩井は周りの評価を気にして自己肯定感を傷つけられたのかもしれない。でも俺は『周りに俺の価値がわかるわけがない』と割り切っている」

何かの柱が崩れたら孤独になる

取材の序盤では「孤独なんて感じない」と強気なYだったが、酒が進むにつれて、徐々に本音が出てくる。目にうっすらと涙を浮かべながら、自らを鼓舞するように言った。

「俺は『孤独予備軍』だよ。何かの柱が崩れたら、孤独になる。好きで孤独でいるわけではない。孤独を感じないように意識している。友人からのLINEにも反応できないほど自分を閉じるときもある。『岩井みたいになるかも』という恐怖がつねにある。両親の死後については深く考えないようにしている。そこは突っ込まないでほしい」

「岩井くんは彼女もいたし、孤独を抱えているとは感じなかった。でも、最後に話したときに岩井くんが『死に対する恐怖はない』という主旨の発言をしていたことは今でも記憶に残っている」

そう話すのは11年かけて早稲田を卒業した加藤志異だ。加藤は常人には理解しがたい「妖怪になる」という夢を抱いている。当初は周りに嘲笑された荒唐無稽な夢だったが、15年近く言い続けたら次第に定着し、今では多くの人に「妖怪・加藤」と呼ばれるようになった。

次ページ「妖怪・加藤」が誕生するまで
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