デジタルメディアは発達障害の原因になるのか 「デジタルがいい悪い」議論より重要なことは?

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繰り返しますが、デジタルメディアが悪なのではなく、どんなものであってもコミュニケーションが生まれる仕掛けがあるかどうかです。

耳当たりのよいキャッチフレーズが専門用語になる

スマホの悪影響を誇張した「スマホ脳」「スマホ認知症」といったことばは、マスコミや一般的な議論の中で便宜的に使用される非科学的な用語です。最近では、充分に科学的な検証が行われていない、業界の中でコンセンサスを得られていない一部の専門家だけが用いる単純化されたキャッチフレーズが独り歩きすることが多い傾向にあります。

「HSP」や「発達障害もどき」といったものもその1つと私は考えています。「境界知能」など本来の意味とはかけ離れた使い方をされているものもあります。

ちなみに「HSP」は、心理学者エレイン・アーロンによって1990年代に提唱されました。Highly Sensitive Personの略で、「非常に敏感な人々(の状態像)」を指す概念です。

あくまで一部の専門家が状態像を説明したものであって、いわゆるパーソナリティ心理学といった領域を中心とした議論にとどまっています(その領域の中でもコンセンサスが得られているとは言い難い)。発達心理学や障害者心理学といった子どもの発達とそのつまずきに密接に関連する領域で議論されていることではありません。

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そもそも、目の前の困った状況に新たな名前を付けたところで実質的な解決には至りません。自己理解促進の一面はあるものの、それを喧伝しても弊害しか残りません。充分に検討されていない耳当たりだけがいいことばが独り歩きすると誤解や偏見を与えかねませんし、本質的な問題のすり替えになってしまうこともあります。

こういったいわば「造語の独り歩き現象」は社会が変革すべき時期によく見られる現象で、その時代に人々が感じる不安や懸念が生み出す亡霊のようなものでもあると思います。あくまで私見ですが、ラベリングを優先する人(「私はASDでHSPで……」)やさまざまなことを特定の原因に帰結させたがる人の発言は特に、鵜呑みにせずしっかりと検証する必要があります。

診断は決して簡単なものではなく慎重さが要求されるものである。心ある医療関係者は通常そう思って仕事をしています。

川﨑 聡大 立命館大学教授

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かわさき あきひろ / Akihiro Kawasaki

立命館大学教授。博士(医学)。公認心理師、言語聴覚士、臨床発達心理士。岡山大学卒業、兵庫教育大学大学院修士課程修了。療育センターで言語コミュニケーション指導にかかわった後、大学病院で言語・心理臨床に携わり、2006年岡山大学大学院医歯学総合研究科で博士課程を修了し、博士(医学)取得。岡山大学病院では発達障害から成人の高次脳機能障害の方の臨床に広く携わる。その後、富山大学、東北大学を経て2023年より現職。専門は言語聴覚障害学全般、神経心理学、ことばの発達に遅れがある子どもの指導。大学教員、研究者でありながら医療や療育の現場出身であることを活かし、発達神経心理や脳科学、特別支援教育を主に広く発信を続ける。

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