ホスピス医が語る「人生最後の日」に人が望むもの 「この世を去る」前に気持ちの変化が訪れる

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患者さんがこの世を去るまでの、わずかな時間。それは、患者さんにとっても、残されるご家族にとっても、非常に貴重で大切なものであり、できればお互いにとって穏やかで幸せなものであってほしい、と私は思います。

しかし、この親子にとっては、お互いが本当の意味で理解し合い、支え合うため、気持ちをぶつけ合うことも必要だったのかもしれません。

誰かに看取られるなら、それ以上の幸せはない

死を前にした患者さんの多くが、自宅に帰ることを望みます。最新設備を誇る病院やホスピスのきれいな病室にいるよりも、古くてシミだらけの我が家の天井を見ていたほうが、心が安らぐというのです。

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ホスピスから帰られたばかりの、ある男性の患者さんのお宅を訪ねたときのことです。家自体、決して新しくはなく、しかもすぐそばを私鉄の線路が走っていたため、部屋には数分おきに電車の轟音が鳴り響きます。

それでも患者さんは、家に帰ってきてからのほうが気持ちが落ち着くし、体調もいい気がすると、とても満足した様子でした。また、ご本人だけではなく、ご家族も、患者さんの表情がホスピスにいたときよりも穏やかになっているのを見て、「自宅に帰る」という決断が間違っていなかったと確信したそうです。

実際、病院にいたときと同じ薬を飲んでおり、病状にも変化がないにもかかわらず、家に帰るだけで表情がガラリと明るくなるという方は少なくありません。たとえ一時帰宅であっても、「やっぱり、家はいいね」と言うのです。

一方で、在宅よりも病院のほうが向いている人もいます。病気に対する不安感が強く、呼べばすぐに看護師や医師が来てくれることに安心する人は、病院で過ごすほうが精神的にも安定するかもしれません。

また、「1人でトイレに行けなくなったら、病院でも施設でもいいから入りたい」という患者さんもいます。「家族に下の世話をさせるのは申し訳ない」と思う人は、そのほうが安心して過ごせるでしょう。

人生の最後をどこでどのようにして迎えたいか。それは人によって異なります。しかしいずれにせよ、必要な設備が整備され、人材が育成され、すべての人が、その人が望むかたちで、穏やかな気持ちで人生最後のときを過ごせるような世の中であってほしい。私はそう願っています。

小澤 竹俊 医師

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おざわ たけとし / Taketoshi Ozawa

1963年東京生まれ。1987年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。1991年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、1994年より横浜甦生病院ホスピス病棟に務め、病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに3800人以上の患者さんを看取ってきた。医療者や介護士の人材育成のために、2015年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立。著書に『あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる』(アスコム)がある。

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