贖罪で移民を受け入れたドイツが直面する苦境 中道を標榜するが、過激なポピュリズムに向かう人も
ただし、東ドイツ出身で左派の政治家となれば、色がつきすぎて警戒する人も大勢います。右も左も両方とも、ずっと広いドイツの支持を集めて頭角を表すことは、左の政党にいては難しかったはずです。
そこであえて右寄りの政党に入り、コール首相やさまざまな人に才能を見出されていった。もしかしたらなかば“自分の本音”を隠しながら、ドイツ初の女性首相となり、16年間も国の代表を務めた――これはある政治学者の分析で、いささか飛躍しすぎかもしれませんが、私は頷ける気がしています。
メルケル首相は移民にも寛容でしたし、東日本大震災の後、いち早く原発廃止を宣言するなど環境問題にも敏感。リベラルに見える決定でした。右派らしいところは安全保障政策で、トータルで“ザ・中道”になるのです。
すべては物理学者らしい合理的な計算だったのか、政治家としての胆力なのか、さまざまな政治学者も分析しています。ドイツ全体としては中道なので、いろいろな意味で統合ドイツらしい中道政治をおこなったといえます。
元シリア難民の政治家も誕生
ドイツはEUの中でも移民や難民を比較的積極的に受け入れている国です。シリア難民を多数受け入れています。それもナチスへの反省からきているというのが私の仮説です。
一人の独裁者や一つの独裁政党に国が突き動かされ、国際協調を踏みにじってはいけない。そう考えているからこそ、EUという枠の中で貢献し、役割を果たしていくのはドイツの国是であり、各党の政策でもあります。ドイツから出た予算でEUが成し遂げたことも多くあります。
EUは移民受け入れの政策を打ち出してきましたし、中でもドイツは積極的でした。人道支援の見地から、メルケル首相は「シリア難民を100万人受け入れる」と宣言。内戦で国を追われた人を受け入れたのは、おそらくかつて無辜のユダヤ人を国から追放し、命まで奪った罪を贖う意識もあったからでしょう。
「あれだけのことをしたからには、困っている人たちを受け入れなきゃいけない」
2015年、ドイツが受け入れたシリア難民が100万人の大台に達したと報じられました。
地方議会ではありますが、最近では元シリア難民の政治家も誕生しています。ドイツ語を一生懸命学び、努力し、社会に認められて議員にもなった。これはナチスへの反省とともに、ドイツの柔軟性、寛容性を表しています。
その一方で、戦後の労働人口不足を補うために政策的に受け入れてきたトルコ移民についてもムスリムの彼らはドイツ文化になかなか溶け込めず、長い年月が経っても相互不信が解消することは難しいようです。
ドイツはフランスのような厳しい政教分離ではありませんが、言葉も文化も全く違う人たちとは、どうしても一体化しにくい。サッカーワールドカップでは、トルコ系選手がドイツ代表となり、心ない言葉を投げかけられることもありました。もちろん、これはドイツに限った話ではありません。
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