NYT記者が分析する、AIが抱える最大のリスク 「まだ暴走列車ではない」AIの現在地と課題
――Signal Foundationの会長で元グーグル社員であるメレディス・ウィテカーさんは、データと計算能力が大手IT企業に集中することに懸念を示しています。新しい生成AIテクノロジーや、私たちが進む方向について上がっている懸念の声に対して、あなたはどうお考えですか。
AIの台頭についての懸念は、以前からありました。AIには、データの収集と蓄積が必要不可欠であり、膨大な計算能力が求められるからです。ウィテカーさんが危機感を抱いているような「研究とイノベーションをどこまで民営化するのか」という点に関しても、学識経験者は以前から懸念を表明していました。こうした問題への提案も出ています。たとえば、アレン人工知能研究所は最近、巨大なデータベースを公開しました。
現状は独占と言うより「寡占」
大規模言語モデルを構築しているIT大手に対しては、独占禁止法違反やデータ集中の懸念がこの数年ずっと存在してきました。「生成AIの誕生によって、データや権力の集中はさらに進むのだろうか?」などの疑問が起きるのは当然のことです。
中には、対抗策を取ろうとする動きも出ています。分散型のデータベース技術であるブロックチェーンや暗号資産、そしてオープンソースAIの構築です。これがどこまで発展するかについては、まだよくわかっていません。
ただ、集中ではなく分散へと向かう流れもあります。先ほど挙げたアレン人工知能研究所などもその流れの中にいます。果たして彼らが行うことは、不可能なのでしょうか。見極めるには時間がかかるでしょう。
とはいえ歴史を振り返ると、こうしたことはオープンソースの分野で、以前からありました。少し専門的な技術の話になってしまいますが、パソコンやサーバーには「Linux」というオープンソースのオペレーティングシステム(OS)が入っています。このOSが台頭したことで、マイクロソフトのウィンドウズは市場力を奪われました。
そこでマイクロソフトが打ち出したのは、「クラウドへの移行」という別の方法です。これにより、マイクロソフトは売上を伸ばしたのです。つまり、ここで行われたのは、規制を求めるということではなく、「技術力による対抗」でした。
また、データの集中などの問題は、当然ながら、今後も取り組んでいくべきものです。たとえば、米グーグルも「反トラスト法」(独占禁止法)違反で提訴されました。
では、「生成AIの時代には、もっと大きな問題が起きるのか?」という疑問もあるかもしれません。マイクロソフトやグーグルといった大手IT企業が争っているので心配はいらない、と言ったところで、あまり慰めにはならないでしょう。
正確に言うと、現状は鉄道時代と似ています。つまり、独占と言うより「寡占」なのです。大手IT企業数社はお互いに対抗する力を持っている。そこにはいくらかの真実もありますが、この分野における市場集中を懸念する人たちにとって、こんなことを言ったところで慰めにはならないでしょう。
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