テクノロジーが希少疾患の創薬を激変させる訳 「新薬を待つ患者」にいかに早く薬を届けるか

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メディデータ・ソリューションズの佐藤 裕 氏、松井 洋 氏
左からメディデータ・ソリューションズの佐藤 裕氏、松井 洋
新薬の安全性や有効性を検証する治験は、新薬開発に欠かせないプロセスだが、治験に参加してもらう患者の確保は容易ではない。とくに症例数が少ない希少疾患ではその傾向が強く、被験者が集まらないことが壁となって断念する治験も存在する。こうした課題を踏まえ、治験のDXで製薬会社と患者の負担を軽減させるソリューションを提供しているのがメディデータ・ソリューションズ(以下、メディデータ)だ。テクノロジーでどのようなことが可能になるのか。同社に話を聞いた。

製薬会社と治験に参加する患者、それぞれの苦悩

――製薬業界では今どのような課題があるのでしょうか。

佐藤 現在、患者さんの数が多い一般的な病気――例えば2型糖尿病や心疾患、高脂血症――に関しては、すでに多くの薬が存在しています。製薬会社が次に注力しようとしているのが希少疾患です。

希少疾患における新薬開発には、治験の壁が立ちはだかっています。患者さんの数が少なく、必要な治験参加者を集めるのに苦労するのです。患者さんが集まらないと、治験の期間が延びてコストがかさみます。

希少疾患の領域での創薬は製薬会社にとってビジネスチャンスですが、治験のコストが負担になって開発を断念するケースも起きています。開発がストップすれば、薬を待ちわびている患者さんにとっても不利益です。

佐藤 裕 氏 ソリューション コンサルティング ディレクター
佐藤 裕
ソリューション コンサルティング ディレクター
2000年よりソフトウェア業界に従事。エンタープライズ向けソフトウェアの開発、サポート、プロジェクトマネージャー、企画セクションを経て、11年にメディデータに入社。ソリューションコンサルタントとして、顧客が持つ技術的な課題や運用上の課題に対する解決方法を提案してきた。23年アジア太平洋地区ディレクターとなり、人材育成、戦略策定を行っている

松井 必要な被験者数を確保できたとしても、倫理的な問題があります。ある薬の有効性や安全性を検証するには、その薬を投与する患者さんと、対照群としてプラセボ(偽薬)や既存の薬を投与する患者さんを比較しなければなりません。

自分の病気を治したくて治験に参加するのに、対照群に組み入れられた患者さんは新薬を試せない、という状況になってしまうのです。

松井 洋 氏 ストラテジックサービス アカウントマネージャー
松井 洋
ストラテジックサービス アカウントマネージャー
1990年代よりIT企業にてライフサイエンス企業のR&Dに関連するアプリケーションの販売促進や導入時のコンサルティング、プリセールス、販売促進、部署のマネジメントに携わる。2014年にメディデータに入社し、20年までプロフェッショナルサービス部門において、コンサルティング、グループのマネジメントに従事。20年7月より営業部門に異動し、システム導入時のITソリューションの設定や運用の支援を行う

また、データの信頼性も課題です。近年、製薬会社は効果や安全性だけでなく、患者さんのQOL(生活の質)にも着目して薬を開発しており、治療を受ける際のQOLをできるだけ下げないように努めています。

希少疾患における新薬開発の主javascript:void(0)な課題は、治験の壁、倫理的な問題、データの信頼性

そのため、治験では患者さんに日誌を書いてもらい、日々の気分や体調など主観的な評価データを得るようにします。日誌は依然として紙が使われることが多いのですが、毎日つけるのは大変で、時につけ忘れも起こります。患者さんが「あのときは確かこんな気分だった」とさかのぼって書くと、せっかくのQOLデータなのに信頼性が落ちてしまいます。

ビッグデータの活用で
より少ない被験者での治験を実現

――こうした課題は治験のDXで解決できるのでしょうか。

佐藤 患者さんを集めるためには、治験に参加する負担を軽くすることが何よりも重要です。仕事が忙しかったり医療機関への距離が遠かったりすると、定期的に通うことが難しくなって参加を諦めたという患者さんは少なくありません。

そこで注目されているのが「DCT(分散型臨床試験)」です。スマホやウェアラブルデバイスを用いてデータを収集することができれば、患者さんは来院頻度を減らすことができ、治験に参加しやすくなります。日誌のつけ忘れの問題についても、デジタルなら「24時間経つと入力不可」などと設定することでデータの信頼性を高めることができます。

松井 DCTは治験を行う製薬会社側にとってもメリットが大きく、治験コストを抑えることができます。予算の問題で実施困難だった治験もDCTであれば実施ができる、というケースも多いでしょう。

――治験のデータが蓄積されることによってのメリットもあるのでしょうか。

松井 データに目を向けると、合成対照群の活用にも期待できます。合成対照群とは、過去の治験データを統計的に処理して作成した仮想的な対照群のこと。これを組み込んで治験をデザインすれば、プラセボや既存の薬を投与する患者さんの数を減らすことができ、新薬開発の期間やコストも圧縮できます。

例えば、希少ながんの1つに「膠芽腫(こうがしゅ)」という悪性度が高いがんがあります。ある製薬会社は、メディデータが提供する合成対照群を活用した第3相臨床試験を行いました。

試験を完了するために必要となる被験者総数が少なくなるため、試験の期間短縮が期待できました。さらに、患者さんが対照群に組み入れられる確率も、50%減少。「わらをもつかむ思いで参加したのに、投与されたのはプラセボだった」という倫理的な課題に対する一定の回答にもなりました。

※患者に投与し、既存の薬と比較して安全性や有効性が上回っているかを検証するもの。第1相は健康な成人に投与して安全性を確認、第2相は患者に投与し安全性や有効性を確認

なぜ世界標準に合わせての
テクノロジーが必要不可欠か

――治験の課題に対してメディデータはどのようなソリューションを提供していますか。

佐藤 以前と比べて治験は複雑化して、取り扱うデータ量は増えています。一方、治験には多くのシステムが必要です。それらを個別最適でシステム導入をした結果、サイロ化が起きてシステムの後ろ側でデータをつなぐ手間が増しています。

メディデータが提供する「Medidata Clinical Cloud」 は、治験の立ち上げから終了までの全体的なプロセスに対応する統合プラットフォームで、データを一元管理することによって全体最適を実現します。全体のプロセスが可視化されているので、医療機関で症例登録が進んでいるのか、治験薬が不足していないかといった点などを把握して、問題があれば迅速に手を打つことも可能です。

現在、世界では国際共同治験が増えており、各国で同一のテクノロジーを使うことになっています。例としては、タブレットを用いて被験者の同意を得ることや、デジタル技術を使って治験施設の管理をすることなどが求められます。

こうした要件に応えられず国際共同治験への参加が難しくなると、世界で承認されている薬が日本では承認されていない、あるいは承認が遅れている、といった状況に陥ります。これらはドラッグロス、ドラッグラグと言われ、日本ではすでに問題となっています。この問題を解決するためにも、テクノロジーを世界標準に合わせることが必要不可欠でしょう。

松井 「Medidata Clinical Cloud」 は治験に関わる各システムをプラットフォーム上で有機的につなぐだけでなく、クラウド内に蓄積されている過去の治験データを2次活用することもできます。先ほど紹介した合成対照群を活用した治験も、過去のデータを匿名化したうえでビッグデータとして活用したから実現できたものです。

メディデータのプラットフォームで実施された治験は3万を超え、900万人を超える治験参加者がいます。豊富な治験データを活用し、今後もデジタルの側面から日本の新薬開発を支援していければと思います。

メディデータは、より多くの患者の希望を実現できるよう、ライフサイエンス分野におけるデジタルトランスフォーメーションを推進している。新しい治療の価値最大化、リスク最小化、アウトカム最適化を目指して、製薬企業やバイオテクノロジー企業、アカデミア、医療診断・機器メーカーなどが日々取り組んでいる研究でエビデンスを見いだし、新たな発見につながるよう支援している。
メディデータが提供している「Medidata Clinical Cloud」(臨床試験統合プラットフォーム)は、2100社以上のライフサイエンス企業や団体に採用され、100万人以上の認定ユーザーが利用している。メディデータは、米ニューヨークに本社を置く、ダッソー・システムズ(ユーロネクスト・パリ:FR0014003TT8、DSY.PA)の傘下のグループ企業であり、世界各国に拠点を置き、各国またはグローバルでの臨床試験ニーズに応えている。

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