DXの足を引っ張る「プロマネ人材不足」が深刻化 AI活用でITプロジェクトの失敗を未然に防ぐ
ITのプロでなくても、
プロジェクトマネジメント能力が欠かせない時代に
経済産業省が「DXレポート」で「日本企業がDXを推進しなければ、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警鐘を鳴らしたのは18年。さらにコロナ禍で新しい働き方を模索する動きが加わり、企業のIT投資はかつてない盛り上がりを見せている。
ただ、ITプロジェクトが増加する一方で課題も生じている。プロジェクトを円滑に進めるには、QCD(クオリティー、コスト、デリバリー)を適切にコントロールするPMやPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)が必要だ。開発作業をSIerに外注したとしても、プロジェクト全体を統括してマネジメントするのは企業側。ところが企業側にプロジェクト管理ができる人材が少なく、混乱するケースが相次いでいるのだ。TIS ビジネスイノベーションユニット プロジェクトマネジメントビジネス推進部 マネジャーの吉原則彦氏は次のように指摘する。
「プロジェクト管理には知識体系や標準的なマネジメント技法がありますが、その知識があっても、多くの案件をこなして経験を積まないと実践的な力は身に付きません。にもかかわらず、昨今はプロジェクトが増加した結果、スキルや経験が足りなくても、難易度の高いプロジェクトを任されるケースが増えています。すると、予算不足に陥ったり、進捗が遅れてサービスのリリースが遅れたりと、失敗が目立ってきてしまっているのが現状です」
プロジェクト管理を標準化して
赤字案件の大幅な減少に寄与
実はTISにとってもプロジェクト管理の難しさはひとごとではなかった。同社は金融を中心に、年間数百から数千の開発案件を手がけているが、期待を超える高い品質を実現することがミッションであるTISにとって、まれに発生する失敗PJをいかに無くすかは非常に重大な課題だった。さまざまな品質向上施策が講じられた中、2014年にはマネジメントフレームワークを開発した。
「従来は、PMがそれぞれの現場で試行錯誤しながら、一からプロジェクト管理に使う管理資料をつくっていましたが、それでは属人的になって品質にばらつきが出てしまう。そこで成功している案件の知恵を結集させて、『成功モデル』を複数定義。成功モデルを基に、各プロジェクトに合わせて最適な形で推進することで、赤字案件が激減しました」
その結果を受け、ビジネスイノベーションユニットは18年から事業会社やSIerを対象にPMO支援サービスの本格的な展開を開始した。サービス領域は「プロジェクトマネジメントコンサルティング」と「プロジェクトマネジメントサービス」からなる2つの軸で構成され、プロジェクトの企画、計画、開発、運用保守の全てのフェーズ、また、実行支援から、組織支援、教育、アセスメントまでの全てのスコープについて、プロジェクトマネジメントの支援を実現する。
「ビジネスイノベーションユニットでは、DXを実現するサービス開発から、決済サービスをはじめとする社会インフラを支える案件まで、業種業界を問わずさまざまな案件を手がけてきました。さらにキャリア採用にも積極的で、多様なバックグラウンドの専門家がいます。スペシャリストたちの知恵と経験を提供することで、PM不足というお客様の課題を解決しています」
情報収集と報告書作成の自動化で
マネジメント工数を15%軽減
ビジネスイノベーションユニットが提供するプロジェクトマネジメントプラットフォームの特徴は、デジタルの力を活用している点だろう。同ユニットはサービスの本格展開に合わせ、プロジェクト管理自動化ソリューション「RoboPMO®︎」の開発に着手した。その狙いを吉原氏は次のように解説する。
「PMやチームリーダーのマネジメント工数の中でもとくに負担になるのは、情報収集や報告書の作成です。一般的にPMはメンバーからQCDに関する情報を集めて、上司や発注者に報告するためにレポートを作成します。メンバーが数人なら対応可能でも、大規模案件で外部パートナーが入っている場合などはファイルやデータの取りまとめに時間と手間がかかり、遅くまで残業することも珍しくありません。こうした定型的かつ繰り返しの作業を自動化できれば、PMはより本質的なマネジメント業務に注力できます」
自動化ツールを開発したことで、データの取りまとめなどで発生していたヒューマンエラーを防ぐことができるようになった。「RoboPMO®︎」を導入したことで、PM工数の約15%程度が削減できたプロジェクトもあるという。手応えを得た同社は、2020年から「RoboPMO®︎」を顧客向けのプロジェクトマネジメントプラットフォームに組み込んでいる。
一人ひとりにAIチャットボットのPMがつく時代に
デジタル活用の動きは自動化にとどまらない。現在、同社が取り組んでいるのが「RoboPMO®︎」へのAI導入だ。ITプロジェクトにはさまざまなリスクが潜んでいる。一般的にSIerでは審査担当がリスク要因を洗い出して受託の可否を決めるが、審査担当がすべてをカバーできずに後でリスクが顕在化することもあった。そこでリスクの認知と予測をAIに支援させるのだ。
AIの学習にはデータが必要だが、TISにはデータの利活用を見据えて過去10年分、数万件に及ぶプロジェクト実績データがあった。また、同社はデータ分析事業を展開する澪標アナリティクスと2020年8月に資本提携しており、AI開発のリソースもある。それらを生かしてリスクの認知と予測機能を開発し、まず社内での活用を進めている。
「最初はリスクを定量的に可視化していましたが、それだけではわかりにくい。天気予報で降水確率だけを示されるより、『今日は傘が必要』と教えてもらったほうが助かるのと同じで、具体的な対応策も併せて示すようにしました。そうしてリスクの早期発見・早期対応を進めています」
「RoboPMO®︎」の進化は止まらない。現在、AIの学習データにPMのスキル値を加えたり、採用を強化してスペシャリストのノウハウを注入するなど、リスクの認知と予測の精度をさらに高める開発を進めている。また、AIと別にリスクアセスメントの結果を組み合わせることで、ユーザーの腹落ち度を高める取り組みも進行中だ。これらの取り組みの効果が社内プロジェクトで確認できたら随時、外部にも展開する考えだ。
自動化やAI活用を進めることで、未来のプロジェクト管理はどのように変わるのか。最後に吉原氏は目指す方向性について語ってくれた。
「ビジネスイノベーションユニットには経験豊富なスペシャリストがそろっていますが、PMO支援のニーズが強く、すべてのお客様の現場にスペシャリストをお届けするのは困難です。優れたプロジェクト管理をより多くのお客様に届けるには、プロジェクト管理の省力化を図るとともに、私たちの知見をツールに落とし込んでサービスとして提供することが欠かせません。将来はPMのみならず、エンジニア一人ひとりにチャットボットのPMがついてサポートするような世界を実現したい。お客様が自走する状態をつくることができれば、日本のDXは大きく前進するはずです」