新規事業創出「夢物語」で終わらせない鍵は? 構想で終わりがちな新規事業にリアリティーを

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SIerとしての顔のみならず、コンサルティングやロボット、AI、データ分析など、あらゆる分野に知見を持ち、日本のビジネスシーンを牽引しているTIS。近年は新規事業開発の支援やビジネス変革でも存在感を発揮しており、中心的な役割を担うビジネスイノベーションユニットは300人超の体制を整えている。そこまで力を入れる理由は何か。同ユニットのメンバーを取材した。

新規事業の創出は“教科書どおり”には進まない

VUCAの時代と呼ばれて久しい。あらゆる環境が目まぐるしく変化し、将来の予測が困難なこの状況は、要件定義を受けてシステムを開発するSIerにとって非常に厳しいといえる。

「お困り事があいまいだったり、具体化しきれていないケースが増えており、なかなかSIerとしての仕事にたどり着けません。顧客のビジネスに寄り添いながら解決の道筋を共に見つけていくことが求められるようになってきています」

TIS ビジネスイノベーションユニット ディレクター 川満俊英氏
TIS ビジネスイノベーションユニット
DXコンサルティングビジネス推進部
副部長兼ディレクター
川満俊英氏

そう話すのは、TISビジネスイノベーションユニット DXコンサルティングビジネス推進部 副部長兼ディレクターの川満俊英氏。では、ビジネスに寄り添うには何が必要なのか。大手コンサルティングファーム出身の同氏は、自身の経験も踏まえて「ビジネスを理解する」だけでは足りないと話す。

「外部の冷静な目で課題を明らかにし、合理的な解決策を提案するコンサルティングはもちろん有効です。しかし、ビジネスの現場では“教科書的”には正しくても、実際に動くとそのとおりにならないことがたくさんあります。そうした諸問題を解決し、顧客に価値を提供するには、ビジネスを創造・推進する能力も必要だと感じてきました」

それでなくとも時代は大きく変化している。既存事業だけでは成長が見込めず、新規事業開発に活路を見いだそうとする企業は多いだろう。ところが実際には、“教科書”に書いていないことが頻繁に起こる。

「よくあるのが、社内の他部署と顧客を取り合うカニバリゼーションの発生です。『ターゲットの重なりはあるが、すばらしいサービスで結果的に会社の利益になるはずだ』といくら言ったところで、社内の稟議が通らないのです。そういった阻害要因をいかにかいくぐるかということまで考えないと、ビジネスとして実現しません」

プライム企業トップを変えた行動の原点は“怒り”

いわば、コンサルタントの客観的な視点と、泥くさくビジネスを実現していく推進力が新規事業開発やビジネス変革に求められるというわけだ。TISのビジネスイノベーションユニットは、この2つを両立させるハイブリッドスタイルを希求してきた。「お客様のビジネスに革新と成長をもたらす先導者」たることを目指し、経営課題の形成から新規事業の戦略立案、AIやデータ分析、ロボットといった先端テクノロジーを活用したビジネスの実現支援まで取り組んでいる。

ビジネスイノベーションユニットが提供するオファリングメニュー
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ビジネスイノベーションユニットが提供するオファリングメニュー

300人超のメンバーが多様性に富んでいるのも特徴。川満氏のようなコンサルティングファーム出身者をはじめ、プロジェクトマネジメントやマーケティング、UXデザイン、アジャイル開発などさまざまな専門性を持つ人材が集結している。

興味深いのは、スキルのみならず個々の“キャラクター”を存分に生かしている点だ。例えば、大手広告代理店と外資系ITベンチャーを経て、起業も経験した後TISに入社したディレクターの高山靖弘氏は「怒りにも似た感情がコンサルティングの原動力」と話す。

TIS ビジネスイノベーションユニット ディレクター 高山靖弘氏
TIS ビジネスイノベーションユニット
ディレクター
高山靖弘氏

「課題の根本となる箇所を突き止め、それを解決したいというのが私のコンサルティングにおける基本姿勢です。事業の阻害要因を見つけたとき、『こんなにポテンシャルがあるのにもったいない』と感情に火がついてしまいます」

だから、現場にどんどん入り込んで思いをぶつけていく。「まるでガソリンをまいているよう」と同じプロジェクトに携わるメンバーが表現するように、顧客企業の社員一人ひとりが持つ“変革の火種”をあおっていくのだ。コンサルティングの進め方の1つに、完成度が低くてもスピーディーに形にする「クイック・アンド・ダーティー」があるが、高山氏はまさにそれを体現している。

「とにかく“たたき台”をぶつけて話を聞く。フィードバックと議論・改良のサイクルをひたすらスピーディーに回していけば最終ゴールにたどり着けるというのが私のポリシーです。決して効率的ではありませんし、手間もかかりますが、結果的に最速でゴールできると思っています」

機械的なアプローチではなく、強い思いがベースになっているので粘り強さも出る。何度も繰り返し対峙し続けるうちに、課題の解像度が上がり、巻き込まれる人が増えていく。結果、ある東証プライム上場企業では、当初新規事業開発に懐疑的だった経営トップの一角が推進派に回り、社内の空気が一変。新サービスのローンチが予定よりも早く実現したという。

「私の手法がどの企業にも通用するとはいえません。しかし、TISのビジネスイノベーションユニットには、さまざまなバックグラウンドや専門性を持つメンバーが豊富にそろっていますので、適切なマッチングでご支援できるのも強みです」

技術力が光るサービスをビジネス化するには?

前述のように、ビジネスイノベーションユニットではコンサルティングサービスだけではなく新規事業開発にも力を入れている。見逃せないのは、対顧客のみならずTIS社内でもリスクを取ってビジネスの創造・推進に取り組み、実践的なノウハウを積み上げていることだ。

TIS ビジネスイノベーションユニット マネージャー 阿部一彬氏
TIS ビジネスイノベーションユニット
マネージャー
阿部一彬氏

中でも、大手金融機関と共同開発した「トークンリクエスタ代行サービス」は、際立って先進的なだけに、同ユニットの事業開発に向き合う姿勢が伝わってくる。普段はコンサルティングを行う一方で、同事業の企画から戦略立案まで中心メンバーとして携わった阿部一彬氏は、次のように説明する。

「キャッシュレス決済で利用されるクレジットカード番号などのID情報は、トークンと呼ばれる文字列に変換してクレジットカード会社に送られる仕組みとなっています。しかし、トークンを発行する事業者との接続には多大なコストがかかるため、トークン利用事業者(トークンリクエスタ)のビジネス展開を阻害していました。そこで、低コストでセキュアに決済ID情報を格納できるサービスとして開発したのが『トークンリクエスタ代行サービス』です」

キャッシュレス決済の発展に大きく寄与できるポテンシャルを持っているだけに、サービス開発に携わる人たちの鼻息は荒かった。しかし、製品がすばらしいからといって売れるとは限らない。「トークンリクエスタ代行サービス」も、プロダクトとしては完成しつつあったが、キャッシュレス決済市場の目まぐるしい変化により、事業計画の変更を余儀なくされていた。

「サービスの企画当初とは市場環境が大きく変わった状況の中で、今後具体的にどうビジネスを推進していくのかは不透明でした。そこで、事業の実現性を高めるために、改めてマーケットを捉え直しゼロベースで事業計画を作成しました」

コロナ禍でも明らかになったように、生活やマーケットを取り巻く環境は目まぐるしく変わっている。特定のマーケットや企業だけをターゲットにした事業計画では当然不十分だ。変化に対応するため、周辺の業界のチェックやサービスの価値向上につながるアライアンスパートナーの検討も必要となる。

「でも、そうやって立案した事業計画をただ示すだけでは前に進みません。顧客に向き合うときと同じように、たとえ自社であっても実際にそのサービスやプロダクトを開発している人たちに寄り添う必要があります」

トークンリクエスタ代行サービスの仕組みが搭載されたサービスはこちら
ソニーのスマートウォッチ「wena 3」
トヨタのキャッシュレス決済アプリ「TOYOTA Wallet」

むきだしのキャラクターは本気度の高さの表れ

ことわざの「仏作って魂入れず」ではないが、組織として形だけは整ってもビジネスとして機能しないということだろう。新卒でTISに入社し、定量データを中心とした分析や仮説立案を得意とするという阿部氏。「怒りに似た感情」を原動力としている高山氏とは異なり、理詰めでアプローチをするキャラクターだが、2人とも人に寄り添う姿勢を大切にしている。このことについて、前出の川満氏は次のように話す。

「実現の可能性をとにかく重視するのがビジネスイノベーションユニットのこだわりですが、そのためには現場に入る必要があります。ヒアリングを積み重ねて、顧客の課題を肌感覚でつかむことで、初めてどう現場に落とし込むべきなのかが見えてきます。忘れてはならないのは、人と人との付き合いだということですね。セオリーなどがあるわけではないですし、ケース・バイ・ケースで動き方も変わってきますが、やはりある種の熱量が重要なのではないかと思っています」

それこそ先んじて動くことで、「ここまでやってくれるなら」と態度が変わることもある。言い換えれば本気度を示すということだろう。ビジネスイノベーションユニットが、個々の“キャラクター”を生かして顧客に向き合うのは、戦略的な狙いではなく、そうしないと本気度が伝わらないからだということかもしれない。

「意図的につくったキャラクターでは、長いお付き合いができませんからね。コンサルティングはデフォルトで嫌われる職種だと思っていますから、まずは関係構築から丁寧にスタートさせることを心がけています」(川満氏)

厳しい言葉を浴びせられることもよくあると笑う3氏。そのタフさは、構想やPoCの繰り返しで終わりがちな新規事業にリアリティーを付加したいという一心からきているという。

「私たちが目指すのは、10年後、20年後の未来ではありません。SIerとして実現の可能性を把握しているテクノロジーを活用し、2~3年後の新たなビジネスの実現を支援し続けることが顧客に提供できる私たち独自の価値だと思っています」(川満氏)

フィジビリティの高い新規事業を支援

まさに、「お客様のビジネスに革新と成長をもたらす先導者」たるにふさわしい目標だろう。手の届かない夢物語ではなく、リアリティーのある新規事業を生み出し続けたい企業にとって頼もしいパートナーとなるのではないだろうか。

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