もはや対人関係スキルはVRとAIで磨く時代が到来 アップスキリングへの取り組みが加速している

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「仕事に役立つ対人関係スキルを身につけるためには、没入型の学習体験が欠かせません。実際の仕事にできるだけ近い状況でリハーサルし、たっぷり練習する必要があります。そのプロセスでは、試行錯誤を重ねることになります。なんらかの行動を取り、まわりの人たちの微妙な反応を手がかりに振る舞い方を修正し、また試みるのです。訓練をくり返すことにより、いわば習慣の筋肉がつくられます」

学習テクノロジーを活用して、大勢の人たちに重要な人間的スキルを学ばせる方法が見出され始めている。そのようなアプローチでは、莫大なコストを費やして教室でセミナーを行ったりはせず、人間の研修講師とバーチャル・リアリティー(VR=仮想現実)およびAIを組み合わせる。

技術的スキルは賞味期限が切れやすい

アメリカに拠点を置くホテル運営会社ベストウェスタン・インターナショナルは、テクノロジーを活用した研修により3万5000人を超す社員のアップスキリングを行っている。この種の研修をすることで顧客への共感を表現し、顧客の困りごとをただちに解決するために行動するスキルを強化してきた。

たとえば、気難しい顧客や社員の話を聞き、対応するスキルを育むためのプログラム。基本的には昔ながらのロールプレーイング形式の研修だが、そこに登場する気難しい顧客や社員は、VRによる仮想のキャラクターだ。

強いストレスを感じる場面をリアルに再現し、受講者の脳がVR体験を現実と勘違いするよう仕向けている。

受講者はAIのキャラクターとのやりとりを通して気難しい顧客と会話し、さまざまな場面の練習を重ね、試行錯誤をくり返す。どれくらいスキルが向上したかという客観的なフィードバックと主観的なフィードバックを受けて、基礎的な人間的スキルの核を成す流暢な会話をする能力を高めていく。

聞く力、コミュニケーション能力、相手の身になって考える能力、判断力、意思決定能力などの基礎的な人間的スキルは多くのタイプの職で重要だが、技術的スキルを生かすうえでもカギを握る要素と言える。

それを欠いている人は、せっかく技術的スキルを持っていても十分に活用できない。この種のスキルは、しばしば賞味期限がある技術的スキルと異なり、職業人生を通じて価値が失われない。

リンダ・グラットン ロンドン・ビジネス・スクール経営学教授

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Lynda Gratton

ロンドン・ビジネス・スクール経営学教授。世界をリードする「働き方の未来」の専門家。全世界で最も権威ある経営思想家ランキングである「Thinkers50」では、トップ15にランクインしており、2018年には安倍晋三元首相から「人生100年時代構想会議」のメンバーに任命された。著作である『ワーク・シフト』『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』シリーズ(アンドリュー・スコットとの共著)は日本で大ベストセラーに。長寿社会におけるキャリア構築の考え方――「人生100年時代」というキーワードをつくり出した中心人物である。

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