外資系ハイクラス人材が日本企業を選んだ訳 転職者が最も大切にすべき当たり前のこと

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デジタル技術の進展や新型コロナウイルスの感染拡大などの影響で、働き方やキャリアの積み方をはじめ、ビジネスパーソンを取り巻く環境は日々変化している。企業の人材活用のあり方も変化しており、より有能なハイクラス人材の獲得が喫緊の課題となる中、生涯を通したキャリア形成はどうあるべきなのか。数々のグローバル企業で要職を務めた後、活躍の場を初めて日本へ移したハイキャリア女性へのインタビューを通して、これからの時代の働き方について深掘りしていく。
※大手企業で元役員や元事業部長など、数百億円を超える規模の事業をマネジメントした経験や、高い専門技術を持つ人材
 

今回インタビューしたのは、数々のグローバル企業でキャリアを重ねてきた、金子みどり氏だ。金子氏は、外資系広告代理店のオグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンなどを経て、ネスレ日本、シティグループ、日本GEなどで要職を歴任し、アマゾンジャパンではパブリック・リレーションズ本部長を務めた。

広告やPR、ブランディング、CSR(企業の社会的責任)などのコミュニケーション領域を専門とする金子氏だが、どのようにしてその専門性を高めてきたのだろうか。

「外資系企業では、コミュニケーション部門は経営に直結する重要部門と捉えます。CEO(最高経営責任者)直下に置くことが多く、私も経営の視点から、各社のマーケティングやブランディングを担ってきました。

もちろん、初めから専門だったわけではありません。40歳手前でふと、自分がこれまでやってきたことがすべてコミュニケーション領域であることに気づき、そこから突き詰めていくことにしたのです。

ただ、自分のキャリアを戦略的に積み上げてきたわけではなく、転職はすべて、その時々のご縁で実現しました。そして各企業で、すばらしいリーダーたちに出会い、育てていただいたのです」(金子氏)

グローバル企業からジャズシンガー、そして日本企業へ

実は彼女には、将来に向けて驚きのプランがあった。

企業の社外取締役をしながらジャズシンガーとして活動する道を探る——。

サンフロンティア不動産 執行役員 グループ・マーケティング本部 本部長 金子みどり氏
サンフロンティア
執行役員
グループ・マーケティング本部
本部長
金子 みどり氏

「長くアメリカに住んでいたので、本場のジャズがずっと身近にありました。ジャズ仲間もたくさんいます。ただ、これまでは聴くだけで、『自分でパフォーマンスをする』という発想はまったくありませんでした。それが去年、『ジャズシンガーになろう』と突然思い立ったのです(笑)。これまでずっと同じ領域で働いてきた反動かもしれませんね。次はまったく新しいことをやりたいと思ったんです」

そんな中、舞い込んだのがサンフロンティアへの移籍提案だった。同社は、日本の都心部を中心に、中堅オフィスビルを再生して付加価値を高める、いわゆる「バリューアップ」事業を中核とする不動産会社だ。2007年には東証1部(現・東京プライム市場)上場を果たしており、現在約500棟の管理実績がある。これまでのキャリアで初めての日本企業。ここにきて、なぜ日本企業を選んだのか。

「『マーケティング部門を新たに立ち上げたい』というお話をいただきました。これまで所属していたグローバル企業では、戦略の枠組みは海外の本社が作ります。それに対して今回は、ゼロから戦略を構築する形となるため、非常にワクワクしたのを覚えています。

もともとは社外取締役としてのオファーで話が進んでいましたが、経営層とのコミュニケーションが進むうちに、『常勤としてより会社にコミットした形で働いてほしい』というお話をいただきました。『ジャズの道はどうしようか』と思案しましたが、フィロソフィー経営を基盤に成長してきたすばらしいビジョンに、自身の心も動いていたので、お話を受けることにしました」

企業カルチャーの違いで感じた「ポジティブな驚き」

移籍には、スカウトエージェントも大きく関わっている。

「担当のエージェント様は、会社側が求めていることや次の企業ステージに向けて必要なことなど、経営の視点から状況を話してくださいました。そのうえで、『なぜ私が必要なのか』を丁寧に説明していただきました。企業から企業へ人を移動させることだけが目的のような扱いではなく、私自身の人となりをきちんと理解しようという姿勢が伝わってきて、面接に挑む前からとても前向きな気持ちになれました」

こうして金子氏は22年1月に入社し、4月には同社の執行役員グループ・マーケティング本部長に就任。以降、グループ全体のマーケティングやブランディングの統轄業務に従事している。

外資系企業から日本企業への移籍では、企業カルチャーの違いに驚くことも少なくない。金子氏の場合はどうだったのだろうか。

サンフロンティア不動産の信条

「非常にポジティブな意味での驚きです。サンフロンティアは、“利他の精神”と“人財”を大切にするといった、確固たる哲学が根付いていて、それを基にした現場力・人間力によって、グングン成長し続けていました。『古きよき日本企業の精神を、こんなにもしっかりと守り続けている企業があるのか』と驚いたのです」

こうした同社ならではのカルチャーをベースに、金子氏は入社して間もなく、コーポレートコミュニケーションの3カ年計画を策定。現在、計画に沿ったさまざまな施策を進めている。その1つが、企業価値を社内全員でつくっていく“共創マーケティング”という理念の下に立ち上げた「マーケター育成プログラム」。1期生には、何と経営陣も名を連ねているという。

「日本企業の“古きよき”考え方を最新のマーケティングと併せて日々、仲間と共に学んでいます。今後は、それらを世界に広げていくことで、世の中から信任をいただき、日本企業全体の価値を高めていくことにつなげていきたいと考えています」

たくさん寄り道をして、楽しいと思うことを選ぶ人生

新しい職場でも早速、力を発揮している金子氏だが、新たな環境で活躍するための秘訣は何なのか。

サンフロンティア不動産 執行役員 グループ・マーケティング本部 本部長 金子みどり氏

「ビジネスパーソンとしてのこれまでの人生を振り返ると、『楽しい』とか『チャレンジしたい』と思えることを、いつも選んできました。根底には、成長できることに対するワクワクがあるのかなと。幼い頃から母に『たくさん寄り道をして、楽しいと思うことを選ぶ人生にしなさい』と言われていたことも影響しているかもしれません。

そういう意味では、年齢にとらわれないことも重要ですよね。いくつになっても新しいことを始めてOKだし、あらゆる世代の人と一人の人間として交流する。人生100年時代ですから、昔より15歳若いくらいの感覚で捉えるべきではないでしょうか」

また、「懐に入ること」も欠かせないと話す。

「新天地で最もやってはいけないのが、『前の職場ではこうだった』と駄目出しをしてしまうことです。過去の看板は一度降ろして、『教えてもらうという謙虚な姿勢』で臨む。そして、あいさつや声かけなど、ちょっとしたことでもいいので、とにかく自分からアプローチする。そうやって、懐に入っていくチャレンジを楽しみながら行うことが重要です」

金子氏の話を聞いていると、改めて転職は自由でいいのだと気づかされた。業種や企業規模、そして自身の能力や年齢に対する固定観念を取り払い、新たに成長できるワクワクを大切にする。そして、自ら胸襟を開いて新しい環境になじむ。言葉にすると当たり前のことのように聞こえるかもしれないが、得てして大切なこととはそういうものだ。

さて、ジャズシンガーとしてのキャリアは結局、どうなったのか。

「今は新しい仕事のほうが楽しくなってしまったので仕事がメインですが、週末に歌う機会がしっかりとあります。シンガーはもともと10年、20年という長いスパンで考えていたキャリアですので、焦ってはいません。年齢を重ねたらその人の人生が顔に出るように、ジャズも人生を重ねるほど深みが増していきますので、おばあちゃんになっても歌い続けられたらいいなと思っています」