「ハイクラス転職」成功者とそうでない人の差 大手企業トップが転職で重視した「ある指標」

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経営に近い役職や高い専門スキルを持つ人材が行う、いわゆる「ハイクラス転職」が注目を集めている。40〜50代であっても、より一層大きな役割を与えられたり、報酬がアップしたりするケースも珍しくない。人材とそれを受け入れる企業の双方が、ハイクラス転職を成功させるにはどうすればいいのか。大手企業トップから55歳で転職し、アイ工務店の代表取締役社長に就任した松下龍二氏の事例を通し、ハイクラス転職の“リアル”に迫る。

「ハイクラス人材」は、明確な定義はないものの、大手企業で役員や事業部長などを務め、数百億円規模の事業をマネジメントした経験や、高い専門技術を持つ人材を指す。こうした人材を、飛躍的な成長あるいは社内体制の抜本的改革を目指す優良中堅・ベンチャー企業が中途採用するのが、「ハイクラス転職」でよく見られる形だ。

近年、定年退職や役職定年、あるいは職場での行き詰まりを感じ、より長く活躍できる場を求めて転職を目指すハイクラス人材は多い。一方、労働力不足もあり、大手企業で実績を積んだハイクラス人材を招き入れたい企業も増えている。ハイクラス転職では、その両者を転職エージェントがマッチングして成立するという流れが一般的だ。

そんなハイクラス転職を成功させた1人が、現在、戸建て注文住宅販売会社「アイ工務店」で代表取締役社長を務める松下龍二氏だ。

松下氏は、パナソニック(旧・松下電工)に入社後、住宅の介護リフォームなどを行うフランチャイズ事業(パナソニックエイジフリー事業)を社内起業し、売り上げ100億円超の事業にまで育てた。その後、グループ企業の住宅総合メーカー、パナホームの代表取締役社長を約3年務めた後、とあるプロジェクトを終えたことを機に転職を決意。2019年、転職エージェントに仲介を依頼した。当時、55歳だった。

予想外の提案に対して求めた、2つの条件とは?

ところがそのエージェントから、予想外の提案が舞い込む。

アイ工務店
代表取締役社長
松下龍二 

「これまでと違う業界を見てみたいと思っていたのですが、エージェントから『あるハウスメーカーの社長にどうしても会っていただきたいのです』と推薦をもらい、それであればと面談の場に足を運びました」(松下氏)

その社長こそが、アイ工務店の田中亘氏(現・代表取締役会長)だった。同社は、2010年の創業から急成長を続け、21年の売上高は680億円に上る。

「恥ずかしながら、エージェントから紹介されたとき、私はアイ工務店のことをまったく知りませんでした。しかし、財務諸表を見てみると売り上げが毎年飛躍的に伸びていて、かつ営業利益も高く、借金もない。『こんな建築会社があるのか』と驚きました。

会長(当時の社長)からは、『ベンチャーを脱して会社をさらに大きくしたいので、大手企業での社長経験のある松下さんに、ガバナンスをはじめとする大きな会社のあるべき姿を構築していただきたい』と依頼されました。それであれば、力になれるのではないかと感じたのです」

一方、松下氏も2つの条件を求めた。

「会議が多く、プロジェクトがなかなか前に進まないジレンマを大企業で長く経験してきましたので、まずは会議を極力少なくすること。そして、私はやり方まで細かく指定される“マイクロマネジメント”が性に合わないので、やり方に関しては基本的に任せてもらいたい。その2つをお願いしました。すると会長は、『松下さんにすべてお任せしますので、自由にやってください』と言ってくださったんです。もはやお断りする理由はありませんよね」

こうして松下氏は、19年11月にアイ工務店に入社し、翌年1月、代表取締役社長に就任。ハイクラス人材として高い評価を受け、報酬額も前職を超えるものとなった。

転職成功のカギは「報酬」よりも「ワクワク感」と…

転職後、まず松下氏が努めて行ったのが、転職先を知ること。そして、転職先の社員に自分を知ってもらうことだった。

「外から来た人間がいきなり社長になったら、『誰だあいつは』と反発を受けるのは当然のことです。そこで私は、『お前ら言うことを聞け』という性格ではないこともあり、まずは役員や現場の長をはじめとする社員に、『会社の強みは?』『会社をどうしたらもっと成長できるか?』『課題は何ですか?』とヒアリングして回りました。また、私の人となりを知ってもらうために、社員たちとよく食事や飲みに行きました。

そのうえで現在、会社の勢いを止めることなく“非ベンチャー企業”としてどうあるべきかを社内に浸透させていっているところです」

そんな日々の中、松下氏が大きなやりがいを感じる場面があるという。

「社員研修では、『物を売るだけではなく、仕事観や人生観をしっかり築くことが大切』という話をし、併せて推薦図書なども紹介しています。参加した社員が『感激しました』『本を読みました』などと伝えてくれるのが、とてもうれしく思います。

また、約束どおり無駄な会議を開く必要がなく、会長もすぐに返事をくれるので、やりたいプロジェクトを速やかに進められています。そういった点で、今の仕事には大きなやりがいを感じています」

そして転職が成功した要因について、こう振り返る。

「思えば、希望していなかった建築業界の会社を、エージェントから誠意を込めてプッシュしていただいたおかげで固定観念を振り払うことができ、結果、自分の経験を存分に生かせる仕事ができる会社に出合えました。

また、転職者にとって報酬は大事かもしれませんが、それ以上に私は『ワクワクするかどうか』を重視しました。ワクワクできれば仕事が楽しいし、成果も出る。成果が出れば、報酬も自然とついてきます。心からやりたいこと、自分自身が成長できること、会社に大きく貢献できることなど、ワクワクにもいろいろありますが、いずれにしてもワクワクして魂を込めて働けることが、仕事選びで何より重要だと考えます。

転職前に会長と話した時、『あ、これは十数年前、自分のやりたいことに全力で挑戦し、お客様に向いた仕事に100%コミットできて、全社員がイキイキとしていたあの時代(エイジフリー事業)と同じ感覚だ』と感じたのを、よく覚えています」

一見、恵まれた待遇の大手企業社員であっても、「もっと自分の能力を生かせる職場があるはず」と感じている人は少なくないだろう。片や、多くの数の中堅・ベンチャー企業が「ここに経験豊富なハイクラス人材がいれば、会社を大きく変えられるのに」と考えている。両者を結び付けるエージェントの力を借りながら、“ワクワク感“や“魂を込められる仕事かどうか”を指標に転職先を探す。それが、ハイクラス転職を成功させる1つの解となるのではないだろうか。

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