「アルミ・UACJと宮城の地ビール」意外な関係 被災地の復興支援から始まった、2社の協業

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UACJ 代表取締役 社長執行役員 石原 美幸氏(右)
一般社団法人イシノマキ・ファーム 代表理事 高橋 由佳氏(左)
2022年7月、宮城県石巻市で一般社団法人イシノマキ・ファームが自家醸造の地ビールを初出荷した。容器には、当初利用していた瓶に加えて、東北の地ビール初となるボトルアルミ缶も使われている。実は、アルミニウム総合メーカーのUACJが19年からイシノマキ・ファームの活動を支援している縁で実現した取り組みだ。2社は、協業によってどのような社会課題を解決しようとしているのか。UACJ代表取締役社長の石原美幸氏と、イシノマキ・ファーム代表理事の高橋由佳氏が語り合った。

新たな被災地復興支援の形を模索する中で出合った2社

――協業の経緯を教えてください。

石原 私たちは東日本大震災以降、寄付などで被災地支援を続けるとともに、本業でもアルミを資材として供給し、復興のお手伝いをしてきました。ただ、単に寄付をするだけではなく、従来の事業の延長でもない、別の形の支援があるはずだと考え、その方法を模索しているときに出合ったのがイシノマキ・ファームさんでした。

高橋 イシノマキ・ファームは2016年に、震災などの影響で心に困難を抱える若者が働ける場を生み出したいという思いで始まった団体です。農業を選んだ理由は2つあります。1つは、農作業には人をリカバリーする力があるから。もう1つは耕作放棄地の問題です。被災地では、津波による塩害や地域を離れてしまいやむなく離農する方がいます。そうした土地でこそ農業をしたいと考え、作物として選んだのが、ビールの原料となるホップでした。まずは20株を植えるところからスタート。そのホップでクラフトビール「巻風エール」を造ったことが、UACJさんとのご縁につながりました。

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アルミ缶が使われた、地ビール「巻風エール」。デザインにもこだわりが見える

石原 私たちは飲料缶や自動車、IT機器、航空宇宙などの幅広い産業分野にアルミニウム素材を供給しています。アルミ板の中で最も供給数量が多いのが飲料缶向けですから、ビールにもなじみが深い。新たな復興支援の形を模索する中で、ホップを栽培している就労支援団体があると知り、ホップ栽培活動などの協賛を申し出ました。

高橋 イシノマキ・ファームは草の根でやっている小さな団体ですから、最初にUACJさんからアプローチがあったときは驚きました。でも、石原社長が現地見学を希望されていると聞いて、本気度が伝わりました。

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石原 コロナ禍の影響で、石巻を訪問したのは22年8月になってしまいました。初日は醸造所を見学して、翌日はホップの収穫を体験。たまたま醸造所の前を自転車で通りかかった女性が「今日はおめかししてどうしたの?」と冗談交じりに高橋さんに話しかけていました。その様子を見て、イシノマキ・ファームが本当に復興しつつある地域に溶け込んで活動していることを実感しました。

アルミは何度でもリサイクルが可能でビールに適している

――クラフトビールの容器に、アルミのボトル缶を使った経緯を教えてください。

高橋 ビールは地域の皆さんとのコミュニティーツールにするつもりで造り始めました。私たちには醸造技術がなかったので、最初はある醸造元に200リットルの醸造を依頼。アルミ缶が容器として優れていることは知っていましたが、少量では難しいため、当初は瓶に詰めていました。

いつかはアルミ缶に切り替えたいと考えていたら、UACJさんがメーカーと連携して、アルミのボトル缶にビールを充填する装置を紹介してくださり、導入することに。新たに自家醸造を始めて、今年7月からボトル缶でも出荷しています。

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石原 アルミはビール容器に適しています。ビールは光を浴びたり空気に触れたりすると劣化しますが、アルミは遮光性があり、また空気を通しません。さらに熱伝導率が高いため、すぐに冷えます。おいしく飲めるのはもちろん、冷却に使用するエネルギーが少なく済むので省エネになります。

見逃せないのがリサイクルです。アルミの新地金はボーキサイトを電気分解して製造しますが、それに必要なエネルギーを100とすると、リサイクルの場合は3のエネルギーで済みます。とくにアルミ缶はリサイクルシステムが整っており、国内で消費されたアルミ缶のうち約97%が回収され、そのうち約70%がアルミ缶に生まれ変わります。しかも、リサイクルは何度でも可能。環境負荷低減に大きく貢献する素材です。 

高橋 私たちもリサイクルには強い関心を持っています。これまでイベントなどでビールを提供する際は、軽くて扱いやすいプラカップを使っていました。ただ、廃プラの弊害もあり、このままでいいのだろうかと疑問を感じていました。そんな折UACJさんから提案があり、今回のイベントでは、アルミ製のカップでも提供しました。専用の回収ボックスも設置して、リサイクル促進を呼びかけています。

農村留学により、社員のエンゲージメント向上も

――今後、協業をどのように進めていきますか。

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石原 農村留学プログラムを社員に勧めるつもりです。現地に行けば、ビールがアルミ缶に充填されるところはもちろん、醸造工程やホップを摘むところも含めて見ることができます。アルミがどのように使われて社会の役に立っているのかを目の当たりにすることは、社員のエンゲージメント向上にも有益なはずです。

働く方々との交流も刺激になるでしょう。私も石巻に行って初めて知りましたが、ファームではさまざまなバックグラウンドを持った方が働いています。高橋さんご自身、レーサーからソーシャルワーカーに転身された異色のキャリアの持ち主。皆さんの人生に触れることで、自身を見つめ直すきっかけになればいい。

高橋 地方と都市部は、それぞれ違ったよさがあります。だからこそ、協業を通じて互いのいいところを持ち帰り、新しい価値を生むことができるはず。私は、物を大切にする心が、人を大切にする姿勢に結び付き、誰もが活躍できる社会の実現につながると考えています。この意味でも、リサイクル性の高いアルミを手がけるUACJさんの事業に共感しています。今後もぜひ一緒に社会課題を解決していきたいですね。

石原 当社はSDGsの4項目をピックアップし、本業を通じた社会課題の解決に取り組んでいますが、それらの核になるのはアルミのリサイクルです。缶についてはすでにリサイクルの仕組みが整っていますが、缶以外の領域はこれから。アルミニウムサーキュラーエコノミーの心臓となるべく、今後もリサイクルを推進していきます。

一方、経営において非財務価値が注目される中、社会の一員として社会貢献活動をしていくことも重要です。イシノマキ・ファームさんの活動は、SDGsで掲げられている「誰一人取り残さない世界」を目指すもの。今回の協業をきっかけに、当社もさらに社会貢献に力を入れていきたいと考えています。

>>UACJと学ぶ、アルミニウムの基礎知識

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