小谷真生子と探る「アルミニウム」と脱炭素の関係 カーボンニュートラルへの切り札になるか?

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経済キャスター 小谷 真生子氏(左)、UACJ 代表取締役社長 石原 美幸氏(右)
今、世界中でカーボンニュートラルが大きなテーマになっている。 脱炭素社会を実現する手段はさまざまだが、リサイクルすることでエネルギーを抑制できる素材の活用も、 有力な手段の1つ。中でも期待が大きいのはアルミニウムだ。 アルミニウムには、いったいどのような可能性が秘められているのか。 アルミニウムメーカー・UACJ代表取締役社長の石原美幸氏に、経済キャスターの小谷真生子さんが迫った。

脱炭素の「救世主」になりうるアルミニウム 

――カーボンニュートラルの潮流をどのように受け止めていますか。

石原 政府は2020年10月に「50年のカーボンニュートラル」、21年4月に「30年度の温室効果ガス排出量を13年比46%削減」を宣言しました。産業界も、経済と環境の好循環を生み出してカーボンニュートラルの実現に貢献することが重要です。

当社も今年5月に発表した中期経営計画で、30年度までにサプライチェーン全体でのCO2排出量を19年度比22%削減するという目標を掲げました。脱炭素社会に向けた取り組みを強く進めていきます。

小谷 世界を見ると、先進国の中にはカーボンニュートラルのあらゆる指標を次々にクリアしている企業を散見します。その一方で、概念ではなく定量化に国際基準を、という声も上がってきています。カーボンニュートラルの数値目標は、欧州が独自の基準で一歩先を行っているようにも見受けられます。米国、中国、日本はまだバラバラです。日本ではアルミニウム業界は高い目標を掲げて取り組みを強化していますが、他の業界では本業が疲弊せずにどのようにして脱炭素の目標を達成していくのか、悩んでいる企業が少なくありません。各業界が脱炭素を模索する中で、「救世主」になりうる素材がアルミニウムだと伺いました。アルミには、どのような特性があるのですか?

石原 まず軽さです。鉄と比べると、比重は約3分の1です。自動車や鉄道、航空宇宙産業などで輸送機器に使われているのは、車体を軽量化すれば燃費がよくなり、CO2の排出削減に貢献できるからです。近年ニーズが増大しているEVやハイブリッド車などの電動車は、バッテリーを搭載するため車体重量が重くなる傾向があり、アルミニウムの軽量性がますます重要になる。50年の輸送機器向けアルミの需要は、19年比で1.7倍になるという予測もあります。

ほぼ無限に使い続けられるアルミはリサイクルしやすい素材

小谷 リサイクル特性についてはいかがですか?

石原 アルミは約660度と比較的低温で溶けるため、リサイクル時に必要なエネルギーが少なくて済みます。原料であるボーキサイトから新しく地金を作る場合と比べて、CO2排出量を97%削減できます。さらにアルミは、何度も繰り返してリサイクルすることが可能。価値を保ったままゴミにならず、ほぼ無限に使い続けられます。

小谷 何度も再生できるのはすばらしいですね。

石原 アルミ缶でいうと、20年度に日本で使用された218億缶のうち、94%がリサイクルされて、そのうち71%が再びアルミ缶に戻っています。

小谷 アルミの用途について調べたところ、輸送機器や飲料缶以外にも多いと知りました。お菓子の包装紙から金属バットまで……。ここまで私たちの生活に溶け込んでいるのは驚きでした。

石原 アルミは、軽さやリサイクル特性のほかにも、熱伝導性や加工性、光沢性などに優れています。それらの特長を生かして、建築、空調、ITなど幅広い産業で利用されています。

ユニークな用途を1つご紹介するなら、神社仏閣の屋根でしょうか。アルミはメンテナンスフリーなうえに軽い。瓦として使うと屋根が軽くなって耐震性が向上するため、アルミへの置き換えが進んでいます。

小谷 意外なところにも使われているんですね!今後の期待が大きい分野はどこでしょうか。

石原 IT分野の需要は期待が大きいですね。IT機器の外板に放熱性がないと、内部に熱がこもってしまいます。その点、アルミは熱を逃がしやすいので、スマートフォンやパソコンの外板などでも活躍しています。そのほか半導体製造装置などでも使われています。

小谷 AIや5Gといった先進的な技術に、半導体は必須です。まさにアルミは、世界を牽引していくビジネスに欠かせない素材なんですね。

――企業には、持続可能な社会に貢献することが求められる時代になりました。

石原 UACJは21年5月に「サステナビリティ基本方針」を打ち出しました。コンセプトは、「100年後の軽やかな社会のために」。それに基づく重要な活動課題として、6つのマテリアリティを特定しました。

小谷 具体的に教えてください。

石原 マテリアリティの1つ目は「気候変動の対応」です。先ほどお話ししたように、政府が掲げるカーボンニュートラルの実現に貢献できる素材として、そのプロセスで大きな効果があるリサイクルの推進を重要課題として位置づけています。次は「製品の品質と責任」。私たちは素材メーカーとして、お客様の満足と信頼を得る製品およびサービスの提供に努め、広く社会に貢献していくことが大切だと認識しています。アルミニウムが選ばれ、そして当社材が選ばれるブランドづくりを目指していきます。さらに企業存立の基盤を成すものとして、「労働安全衛生」「人権への配慮」「多様性と機会均等」「人材育成」をマテリアリティに特定しました。

小谷 興味深いのは「人権への配慮」です。日本でも注目され始めているテーマですね。

石原 マテリアリティの選出に際しては、経営陣だけでなく一般社員も参加してワークショップを実施するなどして全社的に進めました。海外拠点も含めて議論をしたところ、「人権」というテーマが浮かび上がったんです。児童労働など、日本にいてはなかなか気づきにくいテーマかもしれません。

小谷 マテリアリティは、SDGsとも関連していますね。

石原 はい。マテリアリティは、SDGsのゴールのうち「8:働きがいも経済成長も」「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」「12:つくる責任 つかう責任」「13:気候変動に具体的な対策を」と結び付いています。中でも、UACJの事業を通して貢献しているのが12と13。こうしたひも付けができたことも、大きな成果だと思っています。

小谷 ここ数年、ダボス会議でもプラスチック問題がよく議論されています。あるパネルディスカッションで、とある環境活動家の方が「魚を食べたら、中からプラ片が出てきた」と訴えていたのが印象的でした。UACJさんのように、本業の中で自然な形で社会貢献をし、会社の長期的な成長に結び付けていくことがSDGsの意義だと思います。

石原 ありがとうございます。当社の企業理念は「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する」。この実現により、リサイクル性と軽量性を持つアルミニウムを通して環境負荷低減に貢献していくつもりです。

ただ、地球環境の問題は、個社の取り組みでは解決できない大きな課題です。リサイクルの仕組みも、たくさんのステークホルダーと一緒に考えなければならない。当社の技術力を生かしつつ、皆さんと連携して課題解決に取り組み、CO2削減を目指していきます。

>アルミの需要が、世界で伸び続ける理由

※この対談は、緊急事態宣言中だったため、リモートで行いました