平井理央が探る、「エコ素材・アルミ」の真価 リサイクル先進国・日本の技術はどう生きる?

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SDGsが浸透して、企業にも持続可能な社会への貢献が強く求められる時代になった。脱炭素社会に向けて、素材メーカーが果たすべき役割も重大だ。世界トップクラスのアルミニウムメーカー・UACJ(ユーエーシージェー)は、アルミニウムを通して社会課題をどのように解決しようとしているのか。環境問題に関心が高いフリーアナウンサーの平井理央さんが、同社代表取締役社長の石原美幸氏に直撃した。

飲料缶はほぼ限りなくリサイクルできる
アルミニウムは究極のエコ素材

フリーアナウンサー
平井 理央

平井 今、世界中から環境問題に注目が集まっています。素材や資源のリサイクルという観点から、企業にはどのような役割が期待されていますか。

石原 気候変動や廃棄物抑制といった環境課題が取り沙汰されています。それに伴い、リサイクル特性を持つアルミニウムに寄せられる期待が高まっています。現在アルミ産業では、CO2排出抑制や高度資源循環の問題解決のために産官学でさまざまなプロジェクトが動いていますが、UACJとしても役割を担い社会の期待に応えていきたいと考えています。

平井 リサイクルといえば、小学校の頃、ゴミになったアルミ缶やスチール缶を集めていたことを思い出します。そのおかげで「リサイクルはみんなで取り組むべき大事なことだ」という考えが自然と身に付いた気がします。さらに近年はレジ袋が有料化され、日常生活でも環境問題に関心を持つ機会が増えましたね。だからこそ、企業から素材に関する情報提供がもっとあるといいと感じます。商品の包装1つとっても、袋と中身それぞれの正しい捨て方とか、各素材のリサイクル率など、企業がわかりやすく発信してくれると意識するきっかけが増えそうです。

UACJ
代表取締役社長
石原 美幸

石原 アルミニウムについても、企業がもっと発信しなくてはいけませんね。アルミニウムはボーキサイトから造られる金属です。用途は多様ですが、身近なところでいえばアルミ缶。日本で使われているアルミ缶は年間217億缶(※)もあるんですよ。

平井 217億缶とは、想像していたよりもずっと多いです。

石原 アルミニウムの特徴というと、よく軽いことや熱伝導率が高いことが挙げられますが、ほかにもリサイクルしやすいという長所があります。日本におけるアルミ缶の回収率は、現在約98%。しかも、リサイクルするために必要なエネルギーは、新しくアルミ缶をつくるエネルギーに比べてわずか3%ほどで済みます。回収されたアルミ缶は、まず工場で溶解され、地金に戻されます。当社グループでは、北米とタイに溶解から再生まで一貫して担える設備を持っています。

※出典:アルミ缶リサイクル協会「2019年アルミ缶の需要量」

アルミ化が進む
自動車業界などさまざまな業界から集まる熱視線

平井 アルミは、とてもエコな素材なんですね。リサイクルの観点で、アルミの優位性はどこにあるんでしょう?

石原 アルミ缶から再びアルミにリサイクルするのは、実質何度でも可能です。現在、アルミ缶が回収されて再度アルミ缶に生まれ変わるCan to canの割合は、だいたい65%以上で、残りはそのほかの製品に生まれ変わります。

 

石原 アルミは、缶のほかにもさまざまな製品に使われています。例えばスマートフォンの筐体、ロケットや航空機、新幹線、自動車などのモビリティ分野でもよく使われます。とくに今後、需要の拡大が見込めるのが自動車分野です。自動車メーカーは各国の排ガス規制や燃費規制に対応するため、軽量化に力を入れています。そこで、重さが鉄の3分の1ほどしかないアルミに注目が集まっており、自動車の外板パネルやバンパーなどにご採用いただくケースが増えてきました。また、EVやハイブリッドなどの電動車には、リチウムイオン電池が搭載されます。電池筐体や正極材・負極材(銅箔)の分野などで、当社が貢献できる領域は多くあると考えます。

平井 自動車に使われるアルミニウムも、缶のようにリサイクルできるんですか?

石原 はい。しかし、自動車には他素材も使われていますので、リサイクルには分別する仕組みをつくったり、合金成分の調整などについての研究開発が必要です。また、一度市場に出た自動車の素材が戻ってくるには時間が必要です。リサイクルへの取り組みが進めば、輸送機器の分野でもリサイクルがさらに浸透していくでしょう。

平井 自動車でもそれ以外のものでも、大事な思い出が詰まった持ち物は捨てにくいものです。でもリサイクルされて新しく生まれ変わるなら、手放してもいいと考えられるかもしれませんね。

国際イニシアチブASIに加盟
日本の優れた技術を世界へ

平井 アルミのニーズは、海外でも高まっていますか?

石原 今、東南アジアでは、経済成長に伴い、アルミ缶の需要が増えています。製缶メーカーも工場の稼働を増やして、3~4倍ほどに供給量を増やしています。実は東南アジアは、アルミ缶の回収率も高い。アルミ缶が普及し始めた初期から、リサイクルの仕組みがあったことが大きいのかもしれません。

平井 そういう意味で日本は、リサイクルの仕組みやルールが最初からあったわけではないのに、いざルールができたらみんなきちんと適応して、まじめに取り組んでいます。

UACJの製造所内の様子

 

石原 日本はアルミ缶リサイクルにおける先進国。この仕組みをグローバルに横展開していきたいと考えています。一方、日本独自のやり方だけでは難しい部分もあります。そこで2020年7月、世界的なアルミニウム業界団体・ASI(Aluminum Stewardship Initiative)に、日本のアルミ圧延メーカーとして初めて加盟しました。ASIは世界で150の企業や組織が加盟しており、監査や第三者認証を行っています。現在、徐々に各製造所での認証取得に向けて、活動をしています。アルミニウム業界のグローバルスタンダード策定に積極的に関与するとともに、社会のサステナビリティ向上に貢献してまいります。

平井 今日はとても勉強になりました。私も含めて、消費者は使いやすさや価格に注目して商品を選びがちです。しかしこれからの時代は、素材と環境にやさしい素材かどうかが大事だと改めて感じました。

石原 ありがとうございます。UACJの企業理念は「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する」。まさにエコなアルミニウム製品を通して軽やかな世界の実現を目指して、世界中に貢献していくつもりです。

※この対談は、緊急事態宣言発令前の2020年12月に行いました。
また、パーテーションの設置など、感染症予防対策を十分に講じた上で実施しました。

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