サイバーエージェント「新規事業成功の秘密」 異なる人材タイプでも各自が最大の能力を発揮

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サイバーエージェントの常務執行役員CHO曽山哲人氏、マネジメントソリューションズのエグゼクティブディレクター、和田智之氏
プロジェクトを進めるうえで避けて通れないのが、人的リソースの問題だ。リーダーやメンバーをどのようにアサインするか、リソースを最適に配分するためにどう優先順位をつけるのか。人事とプロジェクトの関係とは――。さまざまな新規事業やプロジェクトを展開して軌道に乗せている総合デジタル企業・サイバーエージェントの常務執行役員CHO曽山哲人氏と、マネジメントソリューションズのエグゼクティブディレクターで、『プロジェクトの成功率の高め方』を著した和田智之氏が語り合った。

サイバーエージェントもあまたの失敗を重ねてきた

和田 連結売上高6600億円の総合デジタル企業として存在感を発揮しているサイバーエージェント。インターネット広告のみならず、メディアやゲーム、動画などいくつも事業の柱を打ち立てていますね。

曽山 私が入社した1999年、従業員は20名ほど。ネット広告事業の会社で、ひたすら企業への営業活動にいそしんでいました。2004年にアメーバブログというメディア事業の目玉が立ち上がり、エンジニアやクリエーターが多数入社してきました。当時、服装も文化も大きく異なる人材がたくさん流入してきた驚きがありましたね。この規模拡大を受けて人事部門が設立され、私が統括することになりました。

あれから18年で社員は6000人弱(連結)に、グループ会社は100社ほどに増えました。今でも数多くの新規事業やプロジェクトが動いています。

サイバーエージェント 常務執行役員 CHO 曽山 哲人氏
サイバーエージェント 常務執行役員 CHO
曽山 哲人

和田 今や、誰もが知る大企業に成長した貴社。異なる人材タイプを前提とした事業拡大、人材育成の過程では、さまざまなご苦労があったのではないですか。

曽山 はい、当社も数々の失敗を重ねてきました。例えば、新規プロジェクトの人選です。昔はプロジェクトの内容を確定してから人選していたため、調整に時間がかかり、時機を逸してしまうことが少なくありませんでした。その反省から、現在はプロジェクトの内容と人選をセットで決め、役員会で決議します。責任者は専任となり、メンバーのアサインは責任者の裁量。社外から採用するのも、他部署の社員を口説いて異動してもらうのもOKというシステムです。

和田 日本では、一部の優秀なビジネスパーソンにプロジェクトが集中して多重兼務になり、力を発揮できずに頓挫するケースが少なくありません。責任者を専任とする体制を経営が担保している貴社の仕組みはすばらしいですね。プロジェクトは、正しいとされる手順を踏めば必ず成功するというものではありませんから、自社に合った手法を探り、実践していく必要があります。

アンケートと社内ヘッドハンティングで適材適所を実現

曽山 誰だって、優秀な部下を他部署に引き抜かれる事態は避けたい。当然、プロジェクトメンバーのアサインに際してはいつも摩擦が生じます。しかし、特定の部署にとってマイナスな事象でも、全社にとって、そして本人にとってプラスになるならそれでいいという考えです。

マネジメントソリューションズ  エグゼクティブディレクター 和田 智之氏
マネジメントソリューションズ エグゼクティブディレクター
和田 智之

和田「個人にとってプラスか」という発想は、「上司の言うことは絶対」と考える従来の日本企業に薄かったものです。しかし本来、個人のパーパスと会社の戦略をすり合わせてアサインすることこそ、社員が100%以上の力を発揮する環境づくりに不可欠でしょう。ただ、個人のパーパスまで含めて判断するのは簡単ではないはず。どうやって、適材適所のアサインを実現していますか?

曽山 人事部門に、社内ヘッドハンターの専門部署があります。この部署の役割は2つ。1つは、毎月全社員に行っている「GEPPO」というキャリアアンケートを基に、キャリアに悩んでいる社員をフォローすること。もう1つは、経営者や事業責任者から人材のニーズを聞き、それに当てはまる人材をピックアップすること。GEPPOでは年に1〜2回、将来やりたい職種や分野を質問しており、その答えを人事のデータベースに登録しています。例えば動画事業を立ち上げることになれば、動画に興味がある人やスキルのある社員を絞り込み、役員へ提案します。この仕組みで現在、年間約200人の社員が異動しています。

和田 スキルを細かく管理して適材適所を実現しようとする人事部門は多いですが、例えば100個のスキルについて全社員を5段階評価するのは不可能に近い。それよりも、個人の志向や思い、経験を基に人選したほうが、効果的な異動ができるのかもしれません。若手の抜擢や、メンバーとの信頼関係構築にもつながりますね。

営業利益と時価総額でプロジェクトを評価

和田 企業が持つヒト・モノ・カネのリソースは有限です。中には、途中で方針転換する新規事業や見切りをつけなくてはいけないプロジェクトも出てきます。貴社では、プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントをどのように行っていますか?

サイバーエージェント 常務執行役員 CHO 曽山 哲人氏

曽山「格付け」と「撤退基準」の2つでマネジメントしています。当初は、GOサインが出た事業を順に立ち上げて、赤字が増えてきたら撤退するというやや乱暴なやり方でした。しかし、明確な基準がないままに撤退が決まる状況を変えようと、「CAJJ」――CAはサイバーエージェント、JJは事業と人材――という格付け制度を始めました。営業利益を基に判定し、赤字の事業はJ3、一定額までの黒字はJ2、それ以上はJ1。上に行くほど、人事面で自由な裁量を持てる仕様です。

そのうち精度を高めるべく、J1からJ5までの5グループに増やしました。ところが事業の幅が広がったことで、一口に「大赤字のJ5」といっても経営状況や将来性はそれぞれ大きく異なるという課題が浮上したため、「スタートアップJJJ」をスタート。1つ増えたJは「時価総額」のJです。

和田 複数の要素から、多面的に判定されているんですね。時価総額の計算ロジックは、どれほど精緻なものなのでしょうか?

曽山いえ、ざっくりとしたものです。新規事業開発担当の役員とベンチャーキャピタル部門のメンバーが、その事業を買収するとしたらいくらになるか? という視点で評価・起案し、役員会で決定します。もし判定された評価額よりも高い価値があると思うなら、年2回の決算戦略説明会で代表取締役の藤田晋に提案する機会があるので、そこでPRしてもらいます。

マネジメントソリューションズ  エグゼクティブディレクター 和田 智之氏

和田 事業計画も、あまり細かいものを求めずに進めていくのでしょうか。

曽山 はい。明確に決めるのは資本金と事業分野のみで、具体的な事業内容は当該分野の中で方針変更が認められています。「資本金がゼロ」「2四半期連続で粗利減少」などの撤退基準があるので無制限に続けられるわけではありませんが、場合によっては追加投資もありえます。

和田 これぞまさに、新規事業プロジェクトのあるべき姿でしょう。先行き不透明なVUCA時代には、当初の計画どおりにプロジェクトが進行する確率は非常に低く、軌道修正が必要になるケースも多々あります。にもかかわらず、一般的な日本企業では、一度通した稟議の内容を変更することが難しい。もちろん従来の稟議制度がなじむ分野もあると思いますが、新規事業は別ルールでマネジメントすべきです。

挑戦した敗者には、セカンドチャンスが用意される

和田 メンバーの熱量やチャレンジ精神は、プロジェクトを成功に導く重要な要因の1つです。リスクを取って新事業にチャレンジしても失敗したら評価が下がるような環境では、当然、挑戦へのモチベーションが湧きづらい。貴社では、失敗をどのように捉えていますか。

曽山 当社のミッションステートメントには、「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。」という一文があります。このセカンドチャンスを具体的にサポートしているのが、先ほど紹介した社内ヘッドハンターです。例えば、ある新規事業のKPIが悪化して撤退が見えてきたら、メンバーと面談して、次に挑戦したいことについてヒアリングしておきます。そして実際に撤退したタイミングで、本人の意向に極力沿う形でセカンドチャンスを提供します。社内には、そのチャンスを存分に生かして活躍している“敗者復活組”が数多くいます。こうした事例によって、「挑戦して失敗してもいいんだ」という風土が根付いているのだと思います。

和田 そうした工夫によって、失敗のリスクに萎縮することなくチャレンジできる文化が醸成されたんですね。組織と個人の信頼関係を築き、プロジェクトを多数成功させてきたサイバーエージェントの実践事例から、たくさんの学びを得られます。今日はありがとうございました。

>>プロジェクトを成功させるメカニズムとは? 書籍『プロジェクトの成功率の高め方』(和田智之著)はこちら