日本人には「世界に通じる教養」が足りない 知識の量より、それをどう発揮するかが大事

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今、日本企業の国際競争力低下が課題となっている。上智大学では「教養を身に付けることこそ、ビジネスで勝ち、生き残る秘訣である」という考えから、社会人講座プログラムを開講する。社会人が学ぶ場を提供し、創造知を持ったビジネスパーソンを育成する狙いだ。社会に出てから学び、教養を身に付ける意義とは、どこにあるのか。コンサルティング会社・マネジメントソリューションズで多くの実績を持つ内山鉄朗氏が、同大の学長・曄道佳明氏とともにこの課題の本質に迫った。

とくに「宗教」からくる文化に、日本人は弱すぎる

――今、日本企業の「国際競争力低下」が課題となっています。

曄道 グローバル社会の中で合意形成を得るためには、なんといっても交渉力が必要。それにはスキルはもちろん、人間そのものが信頼されうるかどうかも大きなポイントになります。しかし私たち日本人の多くは、国際的に通用性のある「教養」に欠けています。これはビジネスにおいて、思っている以上にマイナスに働いていると思います。

曄道 佳明
上智大学学長。慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業、同大学大学院理工学研究科満期退学。1998年より上智大学理工学部助教授、2004年より同教授を務める。その後国際協力人材育成センター長などを経て、17年より現職

内山 いったいそれはなぜなのか。そもそも教養とは何なのか。それを正しく知ることが、国際競争力を高めるために重要になってきますね。

曄道 まさにそうです。日本の大学では1、2年次で一般教養科目を取り終えるのが一般的です。3年次で教養科目を取っていると周りから「単位を落としたの?」なんて言われますが、これって奇異な感じがしませんか。高校を卒業したての学生が、たった1〜2年ほど教養科目を受講すれば教養が身に付くなんていう考え方自体、明らかに間違っています。

――ビジネスの現場で、教養はどのように役立ちますか。

内山 グローバルビジネスの現場では、交渉相手のバックグラウンドと価値観を理解しておかないと、致命的な行き違いが発生します。例えばインドで仕事をするならインドの歴史はもちろん、カースト制度に象徴されるような、日本にはない彼らの文化をわかっておく必要がある。つまり、相手を理解しようとするときにまず必要になるのが「教養」なのだと思います。

交渉において重要なポイントは、「抽象思考」と「具体思考」で、ものごとを立体的にとらえる力だと思います。利益が相反する他者が、それぞれの部分最適を目指すと、当然ながら意見が食い違いがちになる。まずは意見がまとまるレベルまで、議論の抽象度を一段階上げることが必要です。そして抽象度の高い会話をするには、相手を理解することがが不可欠。まさにビジネスの現場で、本当の意味での「教養」が試される場面でしょう。 

曄道 国際通用性という意味では、宗教を通した世界観に日本人は圧倒的に弱い。他国の人たちと話をすると、よく会話の中で聖書の中の例え話やエピソードが引用されます。このとき聖書を知らなければ、単語そのものの意味は理解できても、それが肯定的な文脈なのか否定的な文脈なのか判断できません。当然、自分だけその会話から外れてしまうことになる。相手がそんな人間をビジネスパートナーに選んでくれるのか、と考えると恐ろしいですね。

内山 鉄朗
マネジメントソリューションズ ディレクター。英国バーミンガム大学経営学修士課程卒業。2009年よりマネジメントソリューションズ参画。今年11月、『国際競争を勝ち抜くマネジメント』(東洋経済新報社)を上梓

内山 弊社では、「とにかく、たくさん本を読むように。読書のような自己研鑽のための時間を捻出するためにも、無駄な残業をするな」と、代表の高橋信也自ら学び続けることの重要性を社員に説いています。けれども、プロジェクトでご一緒する方々は皆、総じてお忙しい。社会人になっても学び続けることは重要ですが、学びたくても仕事をこなすのに疲弊して余力がない、というのがビジネスパーソンの実態ではないでしょうか。

曄道 最近はだいぶ変化してきましたが、長時間労働を美徳とする企業はいまだに存在しますよね。

内山 はい。そしてもう1つ問題なのは、社会人が勉強をする場が限られていること。来年4月に開講する「上智大学プロフェッショナル・スタディーズ」は、そうした学びの場となりそうですね。

曄道 おっしゃるとおりで、個人が趣味の延長で学ぶ生涯学習とは別次元の、学び続けるための環境が社会に整備されなければいけません。その危機感から創設したのが、本学の「プロフェッショナル・スタディーズ」。ここでは受動的な勉強とは異なり、与えられた題材から各自が自主的に考え、何か成果をつくり出すような学びの場を提供します。

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