日本人には「世界に通じる教養」が足りない 知識の量より、それをどう発揮するかが大事
――「自主的に」「積極的に」がポイントになりそうですね。
内山 確かにビジネスの現場では、前例を見ているだけでは対応できないケースがたくさんあります。与えられた条件や環境の下、その場で自ら学び、解決策を出していく学び方が重要になってきていると思います。
個人の能力開発はもちろん、事業全体でも同じことですが、戦略を立てるだけでは意味がない。実際に行動に移し汗をかいてみないことには、絵に描いた餅にすぎません。よいアウトプットを出すには大量のインプットをし、自分の引き出しを増やすことが必要であると心にとめ、まずは自ら一歩踏み出してみることが大事ですね。
曄道 「プロフェッショナル・スタディーズ」では30講座以上が用意されています。が、この講座を受けたらこれができるようになる、という単純な話ではありません。困難な状況を解決するときに必要なのは、知識ではなく学ぶ力そのものであり、その訓練にチャレンジしてほしいと考えています。教養は蓄えるものではなく発揮するものであるという認識の下、「それはどのように発揮されるべきか?」ということを受講生と、そして産業界と一緒に考えていきたいのです。
「なんとなく働いたら成長できた」はありえない時代
内山 日本ではイノベーションが起こりにくいといわれて久しい。日本人は新しいことを発想することよりも、今までしてきたことを着実にやり続ける、あるいは1つのことを極める方向に思考が向きがちです。しかし、極めるというのは戦術レベルの話です。もう少し大きな視座からの「どうイノベーションを起こせばビジネスで勝てるか」という発想、いわば戦略レベルの視点が、日本企業は弱いように感じます。
曄道 今の話をお伺いして、大事なのは俯瞰する力だと思いました。私の世代は高度経済成長の恩恵を受けており、現在はいろいろな企業でマネジメントの立場に立つ人も多い。その意味では、日本という閉じた社会の中で成功してきた一方、グローバルなビジネス環境を俯瞰する訓練はできていません。産業界だけでなく大学もそうです。ある1つの側面では成功体験でも、時代が変われば失敗の原因になるかもしれません。
――ほかに、日本企業に足りないことはありますか。
内山 成功体験を分析しない傾向があります。成功要因を突き詰めず、「みんな頑張ったから」で終わらせてしまう。これでは再現性がありませんし、失敗したときに「頑張りが足りなかったから」という結論になってしまう。これでは組織としての学習プロセスが回らず、いずれ部下や後輩に同じ失敗をさせることになりかねません。
先日上梓した書籍『国際競争を勝ち抜くマネジメント』ではこうした日本企業の傾向にもフォーカスしています。適宜振り返りを行い、再現性を担保することが重要で、それが組織的な成長にもつながります。
曄道 いまだに「自分は大学時代、遊んでばかりいた」と自慢げに語る管理職や役員がいたりしますね。それは昔の日本社会では成功例だったかもしれませんが、今の若者がそれを真に受けてまねしていたら、いつか後悔するでしょう。これだけ急速に変化していく世界情勢の中では、学び続けることがまず大事。単に「社会に出てもまれたらこうなれました」なんてことは、もうありえない世の中だと考えています。