「クレーンゲーム」に若者が大熱狂する納得理由 大赤字で積極投資、ラウンドワンの大胆不敵

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仮に失敗しても、既存店のマシンの入れ替えに充てられる。また、北米の店舗も日本からマシンを運んでいる。大量発注しても無駄になることはない、そんな計算もあった。

先手を打ち積極投資に出た格好だが、ラウンドワンにとっては珍しい判断だ。これまでの勝ちパターンは「後出しじゃんけん」。古いボウリング場やゲームセンターがある立地に、充実した設備でマシンの数も多い店舗を出店し、一気に集客を進める戦略が中心だった。

しかし今回は異なる。ギガクレーンは1店舗で7~8億円(マシンや内装など)など投資は巨額だ。また、ラウンドワンの店舗は各県庁所在地に存在している。金額面でも、立地条件でも他社が追随することは難しい。「言い方は悪いが、いけるに決まっている」。杉野社長には確固たる勝算があった。

富士店に加えて、金沢店や堺駅前店、上尾店などでも実験を進め、本格的に改装に乗り出した。ギガクレーンを導入した店舗は期待通り、改装前と比べて売上高を40%ほど伸ばす効果をたたき出した。

現在、ギガクレーンは北海道から沖縄まで55店舗で展開している。ボウリングやカラオケ、スポッチャはまだ本格回復には至らないが、ギガクレーンの集客効果でアミューズメント部門は大幅なプラスとなり、既存店全体ではコロナ前水準に戻りつつある。

なぜ今クレーンゲームが人気?

大赤字の中でつかんだチャンス。だが、なぜ今クレーンゲームが人気なのか。ここには複数の要素がある。

ネットフリックスなどが浸透し、オンデマンドでアニメを見られる環境が整った。それぞれの作品にファンがつき、メーカーもぬいぐるみなどグッズを制作するようになる。景品となるグッズの数は大幅に広がった。

また、YouTubeではクレーンゲームの景品の取り方を解説する動画もある。マシンの景品を取りつくすチャレンジ動画も大人気だ。中には再生数3000万回を超えるものまである。さらにはメルカリなど、フリマアプリで景品を換金できる環境も整った。こうしたサイクルから、ラウンドワンはクレーンゲームの人気が拡大し、短期のブームではなく長続きすると読んでいるのだ。

今年4~6月期に18億円の営業黒字(国内は10億円の黒字)を計上するなど、コロナによる自粛の反動で好調が続くアメリカでも、ギガクレーンのノウハウを活用する。

アメリカはビールを飲み、ピザをほおばりながら、ボウリングやゲームを楽しむ客が多い。こうした従来型の店舗では自社競合もあるため、ボウリングなどを縮小し、クレーンに絞った小型の専門店を検証する。来期中には数店を開業する予定だ。

ラウンドワンの杉野社長
ラウンドワンの杉野社長。アーケードゲームのメーカーが法人向けの投資を絞る中、10年後も需要が見込めるクレーンを強化したいとの思惑がある(撮影:尾形文繁)

日米ともラウンドワンの業態が大幅に変わるように見えるが、杉野社長に躊躇はない。「何かの部門が悪いとき、ほかの部門でリカバリーすることは今までもやってきた。ゲームが好調ならゲームマシンを入れ、カラオケもスポッチャも導入してきた。時代に合わせて店舗の形は変わっていい」

密になる、として避けられてきたカラオケをはじめ、オールで遊ぶ大学生や20代の社会人など、客足がコロナ前に完全に戻るのかといった懸念はある。だが、ギガクレーンで回復を牽引できれば、客足が完全に戻らなくても、規模拡大と収益性を高められる可能性がある。

大赤字の中で積極投資の勝負を懸けたラウンドワン。コロナから立ち上がるレジャー需要をつかみ、早期に投資を実らせることができるか。今期は本格復活の勝負どころとなりそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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