日本の洋上風力発電を切り開く「技術集団」の正体 海や風の自然条件を読み、果敢にGX領域に挑む

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洋上風力発電のイメージ
「2050年カーボンニュートラル」の実現への切り札として、熱視線が注がれている洋上風力発電。すでに欧州を中心に拡大しているが、日本ではいまだ実証段階だ。商用利用の開始に向け、政府はルール整備を進めているものの、実は技術においては未知の領域に等しい。というのも、日本ならではの気象条件や海底地盤、波の状況を分析し、地震や台風などの災害にも耐えられるよう、風車の立地や設計を緻密に検討する必要があるのだ。
そうしたエンジニアリングを手がけるのが、国内の陸上風車の7割近くを設計(同社調べ)してきた構造計画研究所だ。洋上風力発電の現在と未来について、同社のキーパーソンたちに聞いた。

脱炭素に向けて高まる洋上風力発電への期待

世界のエネルギー市場は大きな転換期を迎えている。脱炭素の潮流やロシアのウクライナ侵攻など前代未聞の情勢を受けて、世界の資源開発企業や再生可能エネルギー企業の時価総額は急増。グローバルで再生エネルギー(以下、再エネ)シフトが加速している。

とりわけ大きな期待を寄せられているのが風力発電だ。米国では2022年3月に風力発電が生み出した電力が石炭火力発電と原子力発電を上回り、初めて第2のエネルギーになり話題となった※1

風力発電は、ほかの再エネと比較すると高効率で発電でき、発電コストも低いことから、日本国内でも導入は拡大している。ところが、国内の年間電力量に占める風力発電の割合を見ると0.9%(20年度)※2と、諸外国に比べると圧倒的に少ない。

なぜ、この数字にとどまっているのだろうか。風力発電設備の設計や欧州の風力発電に詳しく、スペインで構造計画研究所の一員として働くマテオ・アライ・アルベル氏は、次のように説明する。

構造計画研究所のマテオ・アライ・アルベル 氏
構造計画研究所
スペイン駐在員事務所 所長
マテオ・アライ・アルベル

「欧州諸国に比べると、日本は台風や地震が多い国。基礎やタワーの設計基準が欧州よりも複雑で厳しいことが、導入の遅れの理由の1つです。また風車は日本で製造されておらず、海外メーカーの風車を日本の自然環境に合わせて調整する必要があるため、導入に時間がかかります」

さまざまな要因で他国に後れを取っていた風力発電だが、ここ最近は導入機運が高まっている。理由の1つは20年12月、政府が2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、洋上風力発電を「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札」と位置づけたことだ。

現在、国内の風力発電は陸上に建てられた風車によって行われているが、日本は四方を海に囲まれていることから、このアドバンテージを生かさない手はない。陸上・洋上風力発電を合わせれば、日本の年間電力消費量を賄えるといわれるほど、高いポテンシャルを秘めている。

その一方で、洋上風力発電施設はごく一部を除いて稼働どころか着工すらしていない段階。しかし、政府は具体的な指標として40年までに3000万~4500万キロワットの発電量の達成という高い目標を掲げている※3。これは大型火力発電所30~45基程度の規模となることから、かなり大胆なチャレンジだといえる。

※1 米国エネルギー情報局の発表より
※2 資源エネルギー庁調べ
※3 国土交通省「洋上風力産業ビジョン(第1次)」(令和2年)より

洋上ならではの厳しい自然条件をクリアする難しさ

現在、「再エネ海域利用法」※4に基づき、国によって洋上風力発電促進区域の指定が進められている。ビジネスの観点からも大きなポテンシャルがある洋上風力発電だが、参入企業にとってはいくつかの障壁がある。同じく構造計画研究所の木村まどか氏は次のように話す。

構造計画研究所の木村 まどか氏
構造計画研究所
エンジニアリング営業1部 WPDコンサルティング室長
木村 まどか 

「洋上に風車を設置する際には、波や風から受ける力や海水による腐食など洋上ならではの自然の力に関する問題も考慮しなければなりません。さらに、風車を建てられるエリアには制限があるので、『どの風車をどのような配置にすれば導入コストを抑えてより多くの発電量が得られるのか』という観点も重要です。

このように、高い専門性が必要かつ検討すべき要素が多いので、1つのプロジェクトに関係する企業の数も増えてきます。これによって、各社間の調整に難航したり、コストが余計にかかったりといった問題が生じています。また、審査基準の複雑さも頭を悩ませる要因になっています」

そこで、構造計画研究所は、エンジニアリング分野における一貫したコンサルティングサービスを提供。独立系のコンサル集団として関係企業と連携し、設計・審査対応などを一手に引き受けることができるため、事業費のコストダウンにもつながるという。

構造計画研究所の風力発電における実績

2013年には、風車の基礎設計の安全性審査に関する経済産業省の法整備事業に携わったことから審査基準への理解も深く、風力発電業界におけるハブ的な存在として認知されるようになったという。

「洋上風力発電に求められる構造設計については、高層建築物の設計技術や審査のノウハウを持ち、かつ陸上風力発電のタワーや基礎の構造設計に従事してきた経験値の高いメンバーが担当します。また、構造物への風や波の荷重、地盤や地震動の解析(地震による影響を調べること)などの技術コンサルティングも提供しています」(木村氏)

なぜ、構造計画研究所はこうしたサービスを提供できるのか。それは、ユニークかつ希有なバックグラウンドにある。1956年に東京工業大学発のベンチャーとして創業した同社は、超高層ビルからジェットコースターなど難易度の高い構築物まで構造設計を中心に、防災や情報通信など幅広い分野へ展開してきた。

ビジネスの中核は「現実の課題を科学的に解決するエンジニアリング業務」で、自然環境を把握してシミュレーションを行い、設計など実務に落とし込むことを得意とする。

陸上風力発電に携わり始めたのは、2007年ごろのこと。現在に至るまで、国内の陸上風車の7割近くの構造設計を手がけるが、洋上でもその技術力は存分に発揮されそうだ。構造計画研究所で風車の土台の構造設計を担当する関根渉氏は「これまで地震・風・波と別々に行ってきたコンサルティングのノウハウが洋上風力発電にすべて集約される」と語る。

構造計画研究所の関根 渉 氏
構造計画研究所
風力発電設計部 部長 
関根 渉

「洋上風力発電では、地震以外にも津波や高波による影響も考慮する必要があります。私たちは流体力学に基づく津波、高潮の遡上(そじょう:水が登っていくこと)や浸水の評価を行っており、波力の評価や解析にこの技術を用いています。

そして、設計だけでなく事業評価にも不可欠な風況の解析には、高層建築物の計画段階で実施してきたビル風の評価コンサルティングのスキルが生きています。

こうした背景から、私たちは風や波力の評価、発電量予測、風車のレイアウトの検討など、設計の前段階であるウィンドファームの計画・開発段階に参入し、開発から設計までのワンストップサービスを実現できたというわけです。今まで培った確かな技術力を有することから、信頼と期待を寄せられていると自負しています」

※4 正式名称は「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」。洋上風力発電において、海域の占用に関する統一的なルールがない、先行利用者との調整の枠組みが存在しない、といった課題の解決に向け成立した

スペインに拠点を設置し、欧州の知見を日本に伝える

各分野のエキスパートが集結し、洋上風力発電に参入する企業に、設計や審査対応などのサポートを提供する構造計画研究所だが、海外の関連メーカーと密に連携できることも同社の強みだ。プロジェクト全体を担当する関根氏はこう語る。

「海外メーカー製の風車を安全に設置するためには、日本の設計基準や地震・台風といった現象を踏まえた構造設計を要します。当社には日本の基準を熟知し、海外の風車メーカーと英語やスペイン語でやり取りができるアルベルをはじめとした海外のメンバーがいるので、スムーズに連携が取れるのです」

構造計画研究所の木村 まどか氏と構造計画研究所の関根 渉氏

2022年7月には、洋上風力発電が先行する欧州の中でもパイオニアであるスペインにオフィスを開設。アルベル氏が赴任し、日本の洋上風力発電を牽引する一翼を担っていく。具体的には、風車メーカーや洋上風力に関する技術や基準、トレンドをつかんでコンサルティングサービスに役立てる予定だ。アルベル氏はスペインでの活動の目的を次のように話す。

「1つ目は、既存顧客との関係強化です。洋上風力発電機の開発や設計は欧州を拠点にしているため、設計時の迅速なコミュニケーションや技術の共有ができます。

2つ目は、最新のトレンドを把握することです。風力の業界は変化のスピードが非常に速く、欧州はその先頭を走る存在です。新しい技術を早い段階でキャッチアップし、日本の洋上風力発電のプロジェクトに還元できればと考えています」

構造計画研究所 スペインオフィスに勤めるマテオ・アライ・アルベル 氏

これまで蓄積したエンジニアリングのノウハウで、計画・設計・審査の面で陸上風力発電の根幹を支えてきた構造計画研究所。エネルギー戦略の岐路に立たされている中、日本の命運を懸けて、洋上風力発電の導入拡大への一歩を踏み出している。

「学問知と経験知による知の循環から生み出される、工学的手法に立脚したユニークな解決策を提供すること」をミッションに掲げる同社は、その使命を果たそうとしている。

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