迫る物流危機、「数学」で輸送効率を上げる秘策は 輸送コスト高騰に備える「積み荷の配置最適化」
この問題に数学・統計学など科学的なアプローチで挑んでいるのが技術コンサルティング組織、構造計画研究所だ。建築物の構造設計を得意とする同社は、かねて培った技術やノウハウを物流の無理・無駄の解消に生かしているという。具体的な解決事例も踏まえながら、BtoB物流が抱える課題と解決策を探っていこう。
物流の歪みが企業全体の経営課題に
「物流の2024年問題」が目前に迫っている。
2024年4月1日、働き方改革関連法の改正により、トラックドライバーにも時間外労働の上限規制が適用される。長時間労働や離職の改善のためとされているが、同時にジレンマも抱えている。なぜなら、物流は極めて労働集約型な業務で成り立っているからだ。
運送事業者側はトラックドライバーの労働時間減少に比例した売り上げの減少、荷主側は運賃上昇や車両確保が難しくなることなどが懸念されている。ゆえに、時間外労働の上限規制の適用は「物流の2024年問題」と呼ばれ、物流業界は大きな変革を迫られている。
少子高齢化が進む中、とくに物流業界は人手不足が顕著だ。2025年度にはトラックドライバーが20万人以上不足するとの予測※1もある。
「物流クライシス」が現実に起これば、消費者物流だけではなく、調達物流・生産物流・販売物流などBtoBの物流が機能不全に陥り、企業のサプライチェーンは大打撃を被る。
すでに予兆を感じている荷主企業は少なくない。鉄道貨物協会が荷主企業に取ったアンケート調査※2によると、物流面の課題として「輸送コストが高く、経営上の負担になっている(54.7%)」と回答、また物流の効率化に関しては「物流コスト削減のため、物流効率化は必要である(86.2%)」と回答している。
増える需要に減る供給。運送会社にとって非効率な積載や輸送、いわゆる「運びづらい荷物」を依頼する荷主は敬遠されかねない。つまり、「物流クライシス」に直面する今、改善を迫られているのは荷主企業にほかならないのだ。
企業の物流課題を数式に落とし込み、解決に導く
では、荷主企業が抱える具体的な課題や解決策とはどのようなものなのか、実例を取り上げてみよう。
窓やサッシ部材を生産する大手建材メーカーYKK APは、まさに運送会社にとって「運びづらい荷物の依頼主」だった。窓やサッシの部材は形状やサイズがバラバラで、中には6メートルを超えるような長尺のものも運ばなければならない。10トントラックの場合、積み降ろしに3時間はかかる。これは、人手不足の運送会社にとって相当な痛手だ。
パレット(荷物を単位数量にまとめて載せる台)での輸送による積み降ろしの効率化を試みるも、さまざまな形状の部材を効率よくパレットに積載することは容易ではなく今度は積載可能容積が40%ダウン。その分を補うために、追加でトラックを依頼しなければならず、運賃平均単価は14%もアップしてしまう事態に。
このジレンマを解決に導いたのが、冒頭で紹介した構造計画研究所だ。YKK APの物流コンサルティングを担当した池水憲治氏は、提供したソリューションの中身について次のように説明する。
「最適な積み付け(トラックの荷台に貨物をうまく配置して積むこと)を導き出すには、さまざまな制約条件を計算に組み込んで解かなければなりません。上積み厳禁や横積み厳禁など積み荷の積載条件を考慮しながら3次元パズルを解くように積み付け計算をするのですが、単に積載率を高めればよいのではなく、積み降ろしやその後の仕分けなど荷役効率も考慮した積み付けを計画していきました。
YKK AP社の場合は、われわれが開発している積み付け計画システム(PackingSim)をベースにパレットサイズを10種類に分け、さらにトラックに積載する際の組み合わせを加えて全108パターンに類型化。その中から最も効率のいいパターンを選んで積み付けられるようにしました」
積み付けをシミュレーションするソフトは他社からも販売されているが、YKK APのように多種多様な形状やサイズの部材には工夫が必要だった。実際、最適解を出すことは極めて難しく、これまでも現場では人の勘や経験を頼りにしていたという。
しかし、構造計画研究所のコンサルティングで合理的な積み付けを実現。積載率のアップとトラック削減の両立を果たすことができたという。何が成功の決め手だったのか、池水氏はこう話す。
「当社が持つオペレーションズ・リサーチ技術によって、効果のあるソリューションを導くことができました。オペレーションズ・リサーチ技術とは、複雑な問題を数学や統計学のモデルに落とし込み、シミュレーションによって解決策を導き出すものです。
問題を解決するには、費用やかかる時間、改善効果などいくつもの評価軸を基に意思決定をしなければなりませんが、この技術を用いることで、複雑な問題の意思決定をサポートできるのです。
ただし、数式を作っただけでは机上の空論になりかねません。そこで、現場にも何度も出向いて起きている事象やその背後要因から課題の本質を見極め、現場に寄り添ったソリューションに仕上げることを重視。だからこそ、複雑な積み付けにも対応できると思っています」
物流の合理化で「三方よし」の社会を描く
そもそも構造計画研究所とは、どのような組織なのか。1956年に東京工業大学発のベンチャー企業として個人の構造設計事務所を創業し、その後業界で先駆けて建築物の構造計算にコンピューターを導入。その活用を軸に、工学や数学を強みに新たな手法にも果敢にチャレンジしてきた。
オペレーションズ・リサーチもその1つで、創業者は1963年ノルウェーで開かれた国際オペレーションズ・リサーチ学会に出席、その後同技術の土木への活用を皮切りに多分野へ展開してきた実績がある。
技術でさまざまな社会課題の解決することをミッションに事業を展開する中で、社会問題化する物流に対して、培ってきた技術を生かしたいと積極的に取り組んでいるのだ。
「迫り来る物流危機に際して、これ以上運送会社やドライバーに負担を強いることはできません。局所最適ではなく、物流全体のサプライチェーンを想定し、それをよりよいものにしていくことが必要です。
限られたリソースで効率よく運ぶことでコストも抑え、現場で働く人も楽になり、これまでどおりスムーズに物が届く。ステークホルダー全員にとって喜ばしい社会をつくりたいというのが、私たちの願いです。トラックの運送だけではなく、コンテナ不足に悩まれている海上運送をはじめ、サプライチェーン全体の合理化にも尽力していきます」(池水氏)
ステークホルダーである運送会社の人的資本を守ることは、荷主企業の社会的責任といってもいいだろう。さらに、物流の効率化はCO2削減にもつながることから、グリーンロジスティクスも注目される昨今。
物流の無理・無駄削減への意識を高めることは、すべての企業のリーダーに求められているはずだ。間近に迫る物流クライシスに先手を打つためにも、ぜひ構造計画研究所に相談してみてほしい。