今年もノーベル賞受賞者が発表された。文学賞には米国の詩人ルイーズ・グリュック氏が選ばれ、川端康成、大江健三郎氏に続く日本人受賞への期待は来年以降へ持ち越された。だが、毎年のように本命視される村上春樹氏は周囲の騒ぎもどこ吹く風。淡々と作品を発表し続けている。
彼の小説の特徴の1つが、作品中に登場するクラシック音楽だ。最近では、『騎士団長殺し』にモーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』、『1Q84』にヤナーチェク『シンフォニエッタ』が登場し、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』では、リスト『巡礼の年』から「第1年スイス」の「ル・マル・デュ・ペイ」(郷愁)が物語の重要なカギとなった。こうした音楽までもがメディアで取り上げられて話題になり、コンサートで盛んに演奏されるようになるのだから、影響力は絶大だ。
『一人称単数』にも
最新の短編小説集『一人称単数』の第6編「謝肉祭」には、無人島にピアノ曲を1曲だけ持っていくとしたら、といった問答がある。ここではシューマンの『謝肉祭』がクローズアップされ、主人公は42枚のアルバムの中から、20世紀を代表する偉大なピアニスト、ルービンシュタインによる『謝肉祭』を最高の演奏として選ぶ。オタク心がくすぐられる描写だ。
また、第7編「品川猿の告白」には、人の言葉を話す、ブルックナー好きの猿が登場する。交響曲第7番の「とりわけ三楽章にはいつも勇気づけられます」などと言われたら、聴きたくなってしまう。
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